∴ 「ざまあみろ」
(浮気じゃないけど最低)

中学の時から付き合っていた男と別れた。
そんで俺は、高校に入ってから告られた学年で一番可愛いって評判の女と付き合い始めた。
別れ話を持ちかけたとき、行為中以外初めて見たあいつの泣き顔にぞくぞくした。結局そのまま最後だからってヤって、次の日は彼女とヤった。
女の気持ちよさを忘れてたよ、って夢中になって腰振ってた。けど思い出すのは、昨日のあいつの泣き顔で。

何で別れたのかって、席が前後で仲良くなった男に聞かれたときは驚いた。俺があいつと付き合っていることは、秘密だったはずだったから。
それを聞いたら、本人から聞いたって短く答えるだけで、それ以上は口を開くことなくただ俺の答えだけを求めるようにじっと見つめてきた。あいつが広めたくないって言ったから俺は言わなかったのに。なんか納得いかねえし、こいつには話したんだ、とは思いつつも、俺はそれが何から起こる気持ちかには気づかないように、目を逸らしながら言った。

「可愛い女に告白されて押し倒されてそのままヤっちゃってさ。俺結構まじめだから、浮気はだめだなあと思って別れたの」
「…まだあいつのことは好きなのか?」
「まあ嫌いで別れたわけじゃないしね。ははっ、今頃あいつ俺思って泣いてんのかなー。だったらぞくぞくする」
「…」

あの泣き顔を思い出したら勃っちゃった。携帯を取り出してあいつの名前を探していた自分に驚く。いやいやだめっしょ。こういうときは彼女呼ばなきゃ。
無意識のうちに体に染み込んだ習慣は、意識しなきゃ変えれないっていうのは本当だなー。
彼女に今日遊ぼうって送ったら、すぐに了承の返事が来た。それに満足して携帯を閉じる。もう男は視線を前に戻していた。



1週間ぶりに、あいつに会った。
人気のない廊下の片隅にいるあいつ。俺はあいつの姿だったらどんなに遠くてもわかる。
3日くらい顔を見なくなったときから俺は原因不明の焦燥感に悩まされていたけど、あいつの顔を見たときはほっとした。その気持ちにも疑問を持ちつつも、一緒にいた彼女に何か理由をつけて帰すと、俺はあいつに話しかけようとわくわくする気持ちを抑えて歩き出した。
だけど死角になっていた位置に、あいつ以外にもう一人誰か男がいることに気づいた。

「―――でも、」
「でもじゃねえよ」
「…おれ、まだあいつのこと…」
「いい。それでも」

その声の主は、俺の前の席の男だった。
あいつを壁際に追い詰めて、両腕であいつが出れないように囲っている。
あいつはちょうど俺に背を向けているから気づいてないけど、あの男は確実に今、俺と目があった。

それにニヤリと笑みをこぼすと、また熱く欲に濡れた瞳が、あいつを真っ直ぐ射抜く。
男らしさあふれる顔から、一気に色気のあるフェロモンみたいなもんをまき散らして、あいつを確実にしとめようとあの男はしている。

「で、でも、それじゃあんたに失礼だろ…」
「そんなことはない」
「だっておれ、まだあいつのこと…あんな最低な男のこと、忘れられ…」
「だから、忘れなくてもいいと言った」



「忘れさせてやる自信はない。けど、あいつを超える自信はある」
「…っ」
「俺に堕ちてこい、」


耳元で名前を囁かれたあいつは、感極まったように泣き始める。
俺しか見たことがないと思った泣き顔を、あいつは、俺以外の男の前で無防備に見せて―――――


優しく泣きわめくあいつを胸の中に抱きとめると、ただ立ち尽くす俺に向かって、



end


みなさんがタイトルの言葉を読んで思ってくれたら、成功。


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