∴ pierrot(浮気男の後悔) 浮気ばかり繰り返す俺に、最初の方は泣きわめいて嫌がってくれたお前。 だけど最近は慣れたのか諦めたのか、何も言わなくなった。 冷めた目で、俺の言う「もうしない」にうなずくことすらしなくなった。 その時点で、思うべきだったんだ。 そうして言われた、あの言葉。 「合コンでもいこーぜ。お前の好きそうなタイプ集めといたからさ」 「お、いいな」 「あ…」 「…」 俺と同じように女好きなダチが誘ってきた合コンに、二つ返事で乗ると、とたんに気まずげに言葉を濁し始めた。後ろを振り向くと、あいつが立っていた。 「…お前、いつから―――」 「あのさあ、もう俺のことは気にしなくていいから」 「―――は?」 「だからさ、お前はやっぱそういうやつなんだよ。別れよ」 そういって、スタスタとまた歩き出したあいつ。 俺はダチの前だとかカッコ悪いとかプライドとか全部捨てて、あいつを追いかけた。 「ごめん、もうしねえから!」 「――は?」 「合コンにも行かねえし浮気もしねえ、だから…っ!」 そのときは折れてくれなかったけど、1か月ほどしたら、呆れ顔で「勝手にしろ」と言われた。 俺はそのとき、完全にあいつに許された気でいたんだ。 ――――だけど。 「……悪かった」 その半年もしないうちに、俺はまた、浮気をしてしまった。 しかも最悪なことに、あいつが訪ねてくることもすっかり忘れて女を部屋で抱いてた。コトが終わって部屋を出たら、あいつが「終わった?」なんて聞いてくるから。 ―――何度これが夢ならばと思ったか。 「…なんも、言わねえのか」 昔みたいに、泣きわめいてほしいと、少しだけ思った。 最近のお前は、冷めた目でこっちを見るだけで、あのときみたいに情熱的に俺を愛してくれない。 「結構耐えたね」 「……は?」 「女抱くの。1か月くらいしたらまたし出すかと思ったけど」 「…な、んだよ、それ…」 予想外の言葉にうろたえる。 女はとっくの昔に帰したせいで、今は二人だけしかこの部屋にはいない。 無音の部屋で黙りこくると、そこには二人の呼吸音と鼓動しか感じることができない。 荒い息の俺とは違って、やっぱりあいつは冷静で。 こんなに呼吸を乱して、鼓動も激しく鳴っているのに、あいつは俺とは違う。 「どういうことだよ…」 「…言葉通りだよ。どうせいずれは再開するとは思ってたから」 「は…?だってお前、俺が謝った時―――」 「ああ言わなきゃ君、しつこいんだもん」 さらりと言われた一言。それに真っ青になる俺を後目に、目の前の男は表情を変えることなく立ち上がると、 「じゃあ僕もう帰っていい?満足しただろうし、恋人ごっこは終わり。もうここには来ないから」 「―――ごっこ、?」 「付き合ったじゃない、半年も。君の自己満足に」 「――じこ、まんぞく…?」 「別れを切り出された理由が自分の浮気だったから、罪悪感にかられた。なんとか許してもらおうと努力した。―――これで、君の中ではハッピーエンドで終わったんでしょ?」 「ちが―――っ」 「もういいよ。どうでもいいし、なに言われても、もう無理だから」 ばいばい。 俺一人しかいなくなった部屋で、フローリングの床に大の字に寝転びながら考える。 ―――――俺は、まったく最初から、信用されていなかったってことか――――― 頬に、涙が伝った。 手を伸ばしても、広がるのは天井で。掴めるのは、虚空だけで。 本当に欲しいものは、もう二度と、手に入らない。 end ひつが不機嫌なとき、一人不幸な浮気攻めが生まれる。 |