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恋愛をすることはとても楽しかった。けれど、いい雰囲気になったり喧嘩をしたり、セックスやキスをするときにも、何かふとした瞬間に「これ、こういう演技に使えるかも」なんて思っちゃってなかなか真剣に相手のことを見れないのが難点だった。

中学時代に地味に悩んで、そのことを麗さんに電話で相談したことがあった。
珍しく「相談がある」って僕がゆったからか、楽しそうにノリノリで『なになに?』と聞いてきたので、しおれた声で相談してみた。
そしたら一瞬間を置いた後、すぐにからからと鈴が転がるような笑い声を零し、
『螢はあたしよりもプロ意識があるわね』
なんて答えたから、麗さんに褒められたことと笑い飛ばされたことで、まあいっか、急に悩んでいたことがばかばかしくなって(今思えば相手にはとっても失礼なことをしたなあと反省してるけど)そのあとは、とても軽い恋愛をしてきた。


そして高校に進学してしばらくしたとき。
入学式当日、壇上に登って在校生代表として挨拶をしていた、生徒会長の榊(さかき)先輩となぜか付き合うことになっていた。

いきなし押し倒されて既成事実を作られて、訴えたら勝てるレベルだったけど、また僕の悪い癖が出てそのまま流されるようにお付き合いが開始した。
―――この人と付き合うと、どういう感情を知って、どんな演技ができるようになるかな。



簡単にいうと、榊先輩は自己中で酷い男だった。
僕を無理やり襲っておいて、いざ僕をものにすると、飽きたのか平気でほかの人に手を出す。
僕だってただ「演技」のためだけにずっとお付き合いすることはできない。
それなりに相手を気に入って受け入れるのに、セフレとかと平気でセックスをする。榊先輩の親衛隊は、別名セフレの集団だった。

榊先輩が何をしたいのかわかんないけど、どんなけ性欲ありあまってるの。
――ちょっと引いちゃうよね。

「ん、ぁ…っ」
「おら、もっと声出せ――っ」
「あぁ…っ!」

移動教室のとき、資料室からあえぎ声が聞こえてきた。
うわあ、と思って覗いて見ると、榊先輩が小柄な男の子に腰を振っていた。

「うわあ…」

これには思わず顔をゆがめてしまう。
どういうつもりで榊先輩は僕と付き合っているのかが分からない。
ため息を吐いて、僕はその場を後にした。
喘ぎ声は、いつまでも鳴り響いていた。


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