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―――父親は数々の賞を受賞したことのある有名な映画監督、母親はハリウッドでもブレイクした美人大物女優。
そんな二人から生まれた僕は、物心ついたときから「演技」というものに触れてきた。
母親と一緒に、父親の映画に出演したこともある。
そのときから、演技の虜。
そんな僕の目標は、もちろん母親、麗(うらら)さん。
演技指導もしてくれて、母親というよりは「お姉さん」というのが僕の中での位置づけ。第一17歳の子供がいるとは思えないほどの美貌と若さで、僕の自慢の人だ。

高校を卒業したら、正式に芸能活動に専念するつもりな僕は、小学校5年生の夏に父親の巽(たつみ)さんが監督の映画に主演する麗さんの演技を見ていた。
思いあいながらも、身分違いのために結ばれない、悲恋物語だ。
ころころと変わる喜怒哀楽、恋をしていると一目でわかる赤く染まった頬に幸せな笑み。思わずこっちまでつられて笑ってしまうほどで。
そして僕が一番印象に残ったシーンが、最後の別れのとき、儚く涙をこぼしそれでも相手に微笑みかけるところ。
その美しさと切なさに、スタッフも、相手役の人も全員が麗さんに見惚れていた僕なんか思わず、感情移入をしすぎて涙を零していた。シーンを撮り終えたことにも気づかず、立ちすくみ涙を流していると、「母親」の顔をした麗さんが僕の横にいつの間にか立っていたと思うと、僕の頭をそっと撫でた。

「螢(けい)、うんとたくさん恋をしなさい。そうすれば、いろいろな感情が味わえて、見る人を惹きつける演技ができるわ」


―――その言葉が、僕の視界を広げてくれる魔法になった。



中学生になったら、全寮制の私立の名門男子校に入学した。そのときから麗さんは海外に、猛さんは長期の映画撮影に出ていたため、忙しくて家に帰れない両親が心配して僕をそこに進学させた。

「麗さん、いっぱい恋しろってゆったのに、どうして男子校に入れるの」
『あら、螢。男の子同士だって恋愛はできるのよ?』
「え…?」
『そういう恋愛もあるの』

初めて聞いたときは「?」でいっぱいだったけど、いざ入学してしばらく経つと、麗さんの言っていることをきちんとわかった。
だって生徒会とか風紀とか、とりあえずそういう役職持ちは「抱きたい・抱かれたいランキング」とかで決めるんだもん。
初等部からのエスカレータ組でもうこの学園に染まりきっていた、女の子みたいな子たちがきゃあきゃあ顔の整った男の子たちに叫んでいたことには驚いたけど。

そして僕も、整った顔立ちの両親から生まれたからには、それなりに騒がれる容姿はしているし。
僕の場合は、「抱かれたい」よりも「抱きたい」の方が多いけど。
とまあ、中学生のときから童貞を卒業するよりも先に処女を無くし、麗さんの言うように色々なタイプの人と恋をして付き合ってきた。
ネコと呼ばれる子とも、タチと呼ばれる人とも、もちろん女の子とも。尻軽とかヤリチンとか言われるほどとっかえひっかえはしてないけれど、高校に入学するまでには4人と付き合った。


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