∴ 03

「でも僕、男ですよ…?」
「ああ、それは心配ない」

一番駄目だろうという部分を最初に突きつけて、帰る方法を探そうとしたけれど、あっさりとイースさんはそれをはねのけた。

「結婚したら、受け入れる側の男には自然と子宮が出来る。だから男同士でも妊娠は可能だ」
「……ジーザス……」

なんてホモに優しい国なんだここは……。
ここにいると、僕が日本で学んだ性教育がまったく役に立たないことがわかる。

「イシュさんは男の人に抵抗はないんですか…」
「俺は顔が良ければなんでもいい」
「え」
「今頃城ではお前を妃にするための準備が着々と進行している。まあ会ってすぐに結婚というのも酷だと配慮をし、式は2週間後だ」
「!?」
「お前はもう逃げられないんだよ」

――――大丈夫だ、式さえ挙げれば、後はどうしようとお前の勝手だ。
そう言うと、堂々と「愛人の元に行く」と残しイースさんは部屋を去って行った。
最後まで見事な傍若無人っぷりに、僕は今度こそ唖然とした。

「国王って、あんな風じゃないとやっていけないのかな……」

一気に老けたと思うくらい、疲れた。
タイムリミットは、あと14日……。
時間がない。

ぐるぐる考えていたとき、コンコンと控えめに扉がノックされる。
つい返事をしてしまうと、「失礼します」とメイド姿の可愛らしい女の人が中に入ってきた。

「本日から、トワ様のお世話をさせていただきます、オルエと申します」
「え、え、」
「何かあったら、遠慮なくおっしゃってくださいね」

にこり、と笑いかけられると、つい反射的に笑い返してしまうのが日本人。
僕も笑うと、オルエさんの頬が赤く染まった。

「イシュ様がトワ様のことを、初めてお会いしたときから最高級の美しさだと申されていましたが、笑うと可愛らしいんですね」

それを聞いて真っ赤になる僕に、無礼だったと勘違いして慌てて謝るオルエさん。

「いや…恥ずかしいんです……」
「まあ!照れてる顔も可愛らしいですわ!」

ますます体を俯かせると、またわたしったらまた…!とはっとして口をつぐむ。
そんな彼女の様子を見て、僕は異世界に来て、初めて声を出して笑ったのだった。

「そういえば、僕メガネつけていないんですけど…」
「メガネ??」
「いや、目が悪い人がつける…」

そういえばここの世界に来てから裸眼なのに、視界がはっきりとしている。

「よくわかりませんけれど、この世界ではそんなものをかけている人はいませんよ?」

きょとんとオルエさんが言う言葉に、僕はこの世界にはもしかして目が悪い人なんていないのかと思った。
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