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「は?…総長から、呼び出しっすか?」

溜まり場に行かなくなって3週間ほど経った今日。いつも通り早く帰ろうと学校を出ると、校門前できゃーっという黄色い声と女子が異様に囲んでいる場所に気づいた。
そのままスルーしようと足早に通り過ぎようとすると、囲まれていた奴が俺の名前を呼んだ。
思わず振り向くと、そこにはチームの副総長の羽柴さんが、整った顔を困ったように歪ませ立っていた。


「ひさしぶりだね、ちーくん」
「はあ…」

副総長の羽柴さん。優しそうに見えて腹では何考えてるかわかんねえ人。柔らかな茶髪で見た目は王子、言動はチャラ男。でも中身はえげつない喧嘩ばっかするギャップ男。苦手すぎる。

「なんで最近来ないの〜?みんなさみしがってるよー」
「あー…、ちょっと用が…」
「つれないな〜。だから今日は呼び出しー。
総長がちーくん呼んで来いってカンカンなのー」

強制召喚で〜す。
 
…………まじか。
ずるずると引きずられながら、右手で携帯を取り出し、母さんに今日はちゆ迎えに行けないとメールを送る。…まあこの機会に総長にやめるって言おう。そう考え俺は羽柴さんに掴まれた腕を離し自分の足で歩き始めた。久しぶりに溜まり場に行くなーなんて懐かしい気持ちで羽柴さんにつれだって中に入る。

「やっほー。ちーくん連れてきたよー」

ざわっ、と漫画みてえに道が開く。
副総長すげえと思っていたが、どうやら俺に視線をやっているようだ。
(はあ?何だよ……)

「羽柴さーん!もう俺らじゃ総長とめらんねえっすよ!」
「よかったー!やっと千景来た!!」
「なんでてめえ来ねえんだよ!総長こええんだよ!!」

黙って聞いていれば散々な言われようである。
その中には俺をチームに誘った中学の同級生の奴もいて、そいつもしっかり俺に文句を言ってくる。

「まあまあ、あとはちーくんに任せて、オレらはとっとと帰りましょー」

ぐいぐいと羽柴さんに背中を押されて幹部以上が入れるという特別な部屋に押し込まれると、そのままパタンと扉が閉められる。がやがやと扉の向こうで足音が聞こえることから、どうやら本当に帰る気らしい。俺を置いて!


「ちょ、羽柴さ……っ!」
「おい、ちい」
「っうわ!」

羽柴さんに文句を言おうとすると、その前に俺の顔の横に両手が延ばされ、恐る恐る上を向くと、そこにはいつもより3割増しこええ総長の顔が。
(顔が整ってる分めっちゃこええ………!!!)
総長の腕の中に囲まれたように至近距離に見つめられ、思わず目をそらす。


「何顔反らしてんだよ。こっち見ろ」
「いてっ」

ぐきっと効果音が聞こえそうなくらい思い切り首を前に向けされられる。
 
「最近溜まり場来ねえじゃねえか。…なんで来ねえんだ?」
「……あー、っと…」

そうだ、俺は今日チームを抜けようと思ってのこのこ羽柴さんについてきたんだった。本来の目的を取り戻した俺は総長を見上げる。ちゆの顔が頭に浮かぶ。言おうと口を開くが、この人のオーラに当てられてなかなか声に出ない。俺のいるチームというものはなかなか大規模なもので、喧嘩に無縁そうな一般人でも知っているくらい知名度が高い。そしてそんなチームの総長というものだから、喧嘩は鬼みてえにつええ。俺は今までこの人が顔に傷をつけられたところを見たことがない。(俺は弱くねえけど避けるのが下手なんだよ!)そのくせ美形だから女はまずほっとかねえ。しかし俺が女だったら総長みたいな冷たい男は嫌だけど…、

「おい」
「うおっ!」
「何無視してんだよ、早く理由話せよ」
「あ、はい…」何度この人の顔は至近距離で見ても慣れねえ。いつも俺と話すときはなぜかこの距離が定位置のようだ。どういう意図があるのかはわからねえが、あっという間に距離が詰められ気づいたらソファに座る総長の足の間に居たとか後ろから抱えられていたということは数多くある。

「総長、俺、」
「総長じゃねえ。潮(うしお)だ」
「う、そうちょ…」
「潮」

しかも名前呼びを強要される。意味がわからん。副総長の羽柴さんでさえ吾妻という名字呼びなのに。


「潮さん、」
「ん?」
「俺、チーム抜けます」


わかりやすく空気が凍った。


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