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俺が所謂チームとかに入ったのはほかでもない、ただ暇だったからだ。
高校に入ってからは毎日は単調でつまらなく、適当に過ごすのに飽きていたそんなとき、中学のときよくつるんでいた一人に誘われた。
なんとなくそいつが紹介したチームのたまり場というバーに行ったら、なぜか総長に気に入られてメンバー入りすることになった。摩訶不思議。
そんなわけで適当に喧嘩を売られたら買い、頻繁に顔に傷を作ってきたり、面白半分で髪にピンクメッシュとかいう奇抜な色を入れられたせいで、ますます学校での俺が浮き始めていた頃。


「にーに、なんでお顔けがしちゃってるの?」


俺が深夜帰ってきて、寝静まった家のリビングで殴られた跡を手当てしていると、トイレのために起きてきたのか妹のちゆが、とてとてと俺のそばに寄ってきた。

「いや、まあ…」
「にーにいじめられてるの?」
「はっ?」
「だってお顔に傷がいっぱいあるもん。いっつもにーにけがしてる!」

涙をためながらちゆが言う。
きゅっと俺の上着の裾を握りながら、座っている俺を見上げる形で言っているため自然と上目づかいになった顔に、なぜか少し罪悪感を感じてちゆを抱き上げる。向かい合わせに座らせると、ちゆが小さな手を俺のほほに当てて

「にーにいたそう……。……ちゆ、にーにいじめてるひとにめってする!」

不覚にもきゅんときてしまった。
めっ!とかかわいすぎるだろ…。めっ!はやべえよ…。

「いじめられてねえよ、大丈夫」

心配してくれてサンキューな、そう言ってちゆの頭を撫でると、俺の体にひっつくようにぎゅーっと足と腕をからませてきた。

 
「にーに高校行ってから、ちゆとぜんぜんあそんでくれない!
夜だってちゆといっしょにねてほしいのに!」

 
そういえば。
中学の頃はちゆと一緒に公園に行ったり、夜は一緒に絵本を読み聞かせたりしていたな。
そのとき俺は普通に黒髪だったし、顔に怪我することだって勿論なかった。


「……そうか、……ちゆ、ごめんな」
「う?」

つまんねー毎日に刺激がほしいからってチーム入ったはいいけど、家族に心配かけてちゃだめだよな。
なんか目が覚めた気分だ。俺は今まで何やってたんだろう。


「にーにも眠くなってきたし、一緒に寝るか?」
「…!うん!ちゆ、にーにといっしょにねる!」

きゃっきゃとはしゃぐちゆを腕に抱えながら、今日は朝風呂決定だなーと思いながら、風呂にも入ってないのにどこかほかほかした気持ちで眠った。
その光景をこっそりと起きて一部始終を目撃し、泣いている両親にはまったく気付かずに。
 


次の日。
いつも通りに起きて、朝風呂に入る。
風呂から出るとちゆが幼稚園の制服を着、肩から黄色い鞄を下げて朝飯を食っていた。
髪から水を滴らせながら来ると、俺に気づいたちゆがまだ床につかなくてぶらぶらとしていた足をさらにばたばたとさせ(犯罪的にかわいい)、「おはよーにーに!」と笑顔で言ってきた。

「はよ」

ちゆの隣に座り、口の横についたケチャップをそばにあったティッシュで拭きとる。


「もー、ちーくん髪の毛ちゃんと拭いて!」


ぱたぱた、とスリッパの音を響かせ母さんがタオルを持ってくる。それを受け取ってがしがしと適当に髪の毛を拭くと、用意してあった朝飯を食べる。優雅に食事をとっているが、普通に遅刻だ。


「ちーくんがっこー行かないの?」
「あー…まあ、食い終わったら行く」
「そっかあー」
「?」

拗ねたように足をぶらぶらさせるちゆに眉をひそめていると、母さんがこそっと俺に

「ちゆはねー、ちーくんが高校行くと遅くまで帰ってこないからいやなんだってー」
「は?」
「ちーくん高校入ってから夜遊びばっかしちゃってるもの! 
そりゃ男の子なんだから多少のやんちゃはしてもいいと思うけど、ちゆが寂しがってるのよー」

ちらり、とちゆを見ると、今度はフルーチェで口をべとべとにしていた。

「あー…まあ、もう、これからは夜遊びも控えるし…。
だからちゆ、寂しがるな。にーにといっぱいあそぼーな?」

そう言うと、ちゆと母さんはぱあっと喜んだ。

「ちーくん!ママ今日ごちそうつくっちゃう!」
「ちゆも!ちゆも!」
「じゃあちゆも一緒につくろっか!」
「うん!」

…ちゆはわかるけど、なんで母さんも喜ぶのかわからん。
まあいいか、と俺は時計を見て3時間目には間に合うなーと計算をしながら、だらだらと久しぶりに穏やかな朝を過ごした。それから宣言通り夜遊びも控え、喧嘩もしなくなった俺は学校が終わったらちゆの通う幼稚園に迎えに行くようになった。怪我が治ってきれいになった顔を見ると、ちゆが本当にうれしそうに笑うから、メッシュも止めようとしたが、それはちゆが好きなピンクだからいいらしい。可愛い。

そんな中学の頃のような健全な生活を送っていた俺は、すっかりチームのことなんて忘れていた。 

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