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ぐちゃぐちゃに荒らされた中央に置かれたテーブルには、食い散らかしたお菓子や飲みかけの紅茶が無造作に置いてある。
幸い書類は無事だったが、甘ったるい匂いやらで部屋が充満していて臭い。

「んー…」
「マナ、悪玉菌がいるよ」
「えぇー…?」

寝起きでとろーんとしたマナの耳元でこそりと呟くけど、まだ覚醒できなくてもにょもにょしてる。

「おい、楓、無視するなよ!!!」
「………え、なんでここにいるの」

ぱちくり、と悪玉菌の大声でマナが今気付いたと目を見開く。すご、マナ寝起き悪いのにこんな早く覚醒するなんて。

「…お前ら、仮眠室でナニやってたんだ、あぁ?」

ぎろり、と会長がおれに向かって鋭い視線を投げつける。
はあ?マナの方をちらりと見たら、寝ているときに暑くてボタンをはずしたのか、乱れた服装に赤くなっていつもより色っぽくなった顔をこてん、と傾けた。
―――ああ、だから会長は怒ってるわけか。
―――離れたのは、自分からなのに。

「カイチョーとか転校生さぁ、
「転校生じゃないぞ!明(あきら)だ!」…明クンはさぁなんでここにいんの?」
「な、なんでって、篤司(あつし)が遊びに来ていいって!!」

篤司とは生徒会長のことだ。
なかなかめんどくさいことしてくれたじゃん、カイチョー。
マナはマイペースに自分のデスクに戻って仕事をしようと座っていた。その様子を目くじらを立てて追っかけた悪玉菌は、ばんっ、とマナのデスクに手をつくと、頭ごなしに何も分からないマナに怒鳴った。
その拍子にデスクに積み重ねてあった書類は崩れ、カフェオレの入ったカップが倒れ、一部の書類がびちゃびちゃに濡れた。
それでも悪玉菌は自分が正義で、今自分が何をやっているか分からないのか、マナに怒鳴り続ける。

「お前ら、二人で仕事をさぼって仮眠室で、せ、セックスとかしてたんだろ!!オレ知ってるんだからな!!!」
「……」

助けを呼ぶように目で訴えたマナに答えるようにおれが足を進めようとすると、さらにそれを見てかっとなった悪玉菌が、とうとう、

「――っ人の話は聞けよ!!」

ぼこっ、と思い切りマナを殴った。非力なマナは小さいながらマナよりは断然力のある悪玉菌に殴られ、椅子から落ちる。
それを見て寡黙な書記や生意気な庶務は笑い、不良と爽やかは悪玉菌の傍によった。
ただカイチョーだけは、マナの様子を見て拳を握り、悪玉菌を睨みつけていた。

だけど、おれはそんなことは気にならず、すばやくマナの傍に寄って顔を隠すように倒れたマナを起こす。
覗き込むと、痛々しく頬は赤くはれ上がり、ぐっと唇を噛みしめていた。

「………書類、やり直しになっちゃいました……」

そういうと、ぽろり、と瞳から涙を滑らした。
頬を緩やかに流れていくそれを見て、おれは、ただ。
――――あ、マナが、泣いた。

それだけを認識して。
頭の奥で、何かが切れる音が聞こえた気がした。


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