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「まあお前らがタロのことすっげー好きだってことはわかった。とりあえず先生ホームルームやっていい?」
「いいよー」

すずちゃんが今日の出来事をすらすらときれーな指で、これまたきれーに黒板に書き込む。すずちゃんっていっつもかったるそーなのに、こういう姿みるとやっぱり先生なんだなあって思う。
そんなおれはいまだ体育座りでひざに頬を押しつけて、窓の外から見える空をぼけーっと見ていた。

「んじゃあホームルームは終わり」

すずちゃんがそういうと、ガタガタと立ち上がってまたみんなが寄ってきてくれる。おれの後ろに座ってたさわやかスポーツマンくんが、大丈夫か?と心配そうに顔を覗き込んでくれたり、ポッキーくれたかわいこちゃんが今度はいちごみるくの飴を袋ごと持って傍にきてくれた。

「…タロ」

あれ、すずちゃんまだいたの。いつもならさっさと帰っちゃうのに。

「おまえ、なんでそんなにつらいのに里中なんかと付き合ってんの?」
「………すきだから」
「浮気されてまで付き合うっておかしくねえ?」
「…」
「昨日のキスだけでこんなショック受けてんだ。また同じような現場見たら、お前、壊れちまうぞ」
「……やめれたら、苦労しないよぉ……」

ふわ、と唐突にすずちゃんの香りに包まれたと思うと、おれはすずちゃんに抱きしめられていた。いきなしのことでびっくりして目がぱちぱちしてしまう。

「すずちゃんなにぃ…?」
「じゃあさ、お前も浮気してみれば?」
「…えぇ?」

すずちゃんのびっくり発言に、教室にいる誰もが目をぱちくりした。

「すずちゃん何言ってんだよー」
「みんなついてけないよー」

教室から小さく沸くブーイング。
それにふっ、とすずちゃんが笑う気配がした。

「だってタロだけが浮気我慢してんの不公平だろー。でも別れたくないんだろ?じゃあタロも浮気すればいいんじゃね」
「ええー?」

それにはおれも驚く。
すずちゃんの顔を見ようと顔を上げると、ぽすぽす、と大きな手で頭を撫でられる。思いのほか気持ちよくて、思わずすずちゃんの背中に腕をまわして堪能してしまった。

「かーわいいの」
「ふにゃーん」

ぽそっと小さく言った言葉は聞き取れなかったけど、変わらず撫で続けてくれるからべつにたいしたことじゃないのかなー、ともっと密着しようとぎゅっと腕の力をこめる。すずちゃん、いいにおいー。くんくんと香りも堪能していると、横から「たしかにそうかもー」「タロちゃんばっか不公平だよね!」と案外乗り気な声が耳に入ってきた。ええー、タロくんびっくりだよぉ。

「でも誰と浮気するのー?」
「里中くんより素敵な人じゃないと、ぎゃふんって言わせれないよー?」

いつの間にかサトをぎゃふんって言わせるための作戦会議になってるよぉ。

「そんな人この学年にいるー?」
「先輩とかー?」
「うーん…いきなしタロと浮気してくださいってゆってしてくれるもんなのかあ?」
「しかもタロが里中と付き合ってるのって有名だろー?」

どーしようかねえ、と変な方向に流れて行ったみんなを止めることができず、おれもどーしよぉ、と悩んでいると。

「じゃー、俺がタロと浮気してやるよー」

マイペースにいつもと変わらない口調ですずちゃんが言う。


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