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「し、の…せんぱ…」

その鋭い眼で射抜かれただけで、もう動くことができなくなる。満も同じように呆然と僕の手を引いたまま紫先輩を見ている。どうして、なんでここにいるの、声に出せずに消えていく疑問が頭の中に次々と浮かんでいく。背を向けた状態の食堂内はいつの間にか言葉は止み、僕たちのただならない雰囲気に飲み込まれたように静かだ。何百人の視線を背中を浴びているが、それさえ気にならないほど、僕はたった一人の視線から逃れたくて仕方がない。

「ゆっくり話そーじゃねえか、二人っきりでなア?」
「――っ!!」
「だ、駄目っ…!!」

満が慌てて止めようとするが、紫先輩とはまた違った美形で俺様な満の彼氏が、いつもは自信に満ちあふれている顔を歪ませ、焦ったように満の細い体を抱きしめ拘束した。

「ちょっと瀧(たき)っ!離してよ!!」
「暴れんな!!…紫先輩、じゃあ、あとは二人でよろしくお願いします」
「なんで二人っきりにするの…っ!!!」
「良いから来い!!」

そのままずるずると満は彼氏にひっぱられ食堂を出て行った。
たぶん満の彼氏は、怒った紫先輩がどれほど恐ろしいか知っているから、満を避難させたんだと思う。その整った顔が無表情になって怒る様は、とても怖い。

「さーて日生(ひなせ)。邪魔者はいなくなったし来いよ」

―――行きたくない、行きたくないっ!!
だけどこの状態の紫先輩を止める人なんて誰も――…

「ひなっ!!」

背中にかかる声。

「ゆ、うや、く……」

―――佑弥くん…っ!!
反射的に振り向くと、ばっちりと目が合う。紫先輩に掴まれていない方の手を伸ばし佑弥くんに触れようとする。佑弥くんも僕の手をつかもうとした。

「お前がユウヤ?」

ぐっ、と紫先輩に強く腕を引っ張られそのまま腕の中に閉じ込められる。後ろから紫先輩の腕がクロスされ身動きが取れなくなる。

「――俺の日生をたぶらかしたクズは」
「「―――っ!!!」」

二人で息をのむ。背中に感じる紫先輩のオーラ、そして佑弥くんに向けているだろう視線が僕たちに鋭利な刃物みたいに突き刺さった。

「もう二度と日生に近づくな」

それだけ言うと紫先輩はまた前を向き歩き始めた。強い力で引っ張られながら、僕は顔をゆがませ泣きそうな佑弥くんと、最後まで目を合わせ続けた。

「佑弥く……っ」
「俺の前でそいつの名前を呼ぶな」
「っ!!」

聞こえないようにつぶやいた言葉に返事があって肩を震わす。

「着いた」

そのままエレベーターに乗せられ行き先も告げられぬまま引っ張られ、着いた先は生徒会や風紀委員などの役員専用の特別フロアと、理事長室がある階の間のフロアだった。一般生徒はもちろん、生徒会さえも足を踏み入れられない、特別なカードがなければ本来は素通りされる、そこは紫先輩の聖域だった。

「ここに招いたことがあんのはお前だけだぜ、日生?」

今言われても全然うれしくない言葉。手は離されることなく部屋に足を踏み込むと、学園の寮とは思えないほど豪華な内装が広がっていた。その豪華絢爛な様子に呆然としながら立ちすくむと、どん、と押され、あっと思ったときには大きなベッドに押し倒されていた。


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