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まるで僕が言おうとしたことを遮るようにタイミング良くかかってきた紫先輩の音楽。しかもメールじゃなくて、電話。どこからか紫先輩が僕の行動を見ていてかけたみたいだ、と思わず思った自分の考えにぞっとした。

佑弥くんと今、僕は中庭で二人でご飯を食べていたから、変に注目をあびることはない。ただ佑弥くんの困惑した視線だけは俯いて携帯を見ている僕にずっと注がれていた。

「ひな、出なくていいのか…?」

鳴って、止んで、また鳴って。
いつまでたっても鳴りやまない携帯。3回目の着信が終わった後、僕はとうとう携帯の電源を切った。

「ひな?」
「―――なんでもないよ、ごめんね」

困ったように佑弥くんに笑い返す。納得していない顔はしていたけれど、そうか、と空気を読んで引きさがってくれた。気を取り直して返事を言う気分ではなかったので、別の話題を出して着信前に言おうとしたことは夜に言おう、と思った。

チャイムが鳴って、二人中庭から出る。
そのまま眠たい授業を受けてあっという間に放課後になった。
部活があるという佑弥くんと、彼氏の元に行くと消えた満、結果的に僕は一人で寮まで帰っていた。同じように寮に向かう人がたくさんいたので、一人で歩いていても別段誰にも襲われたり絡まれたりすることはなく無事に部屋に着いた。
そういえば、と昼休みからずっと電源を切っていた携帯をいじると、

「な、にこれ……」

着信56件、メール32通。
それは全部紫先輩からのものだった。

「こ、わ……」

明日は土曜日だ。僕と同室の満は週末は役員である一人部屋の彼氏のところに泊まることが暗黙の了解となっている。今日は僕は一人。何か悪いことが起きるようなことがして、背筋がぞっとした。――一人が心細くなった。

「――佑弥くん…」

はっと思い浮かんだ顔に、酷く安心した。


―――目が覚めたら真っ暗だった。
(……いつの間にか寝てたみたいだ……)
体の節々が痛い。共通スペースのソファの上で、という寝心地の悪いところで寝ていたからか。
今の時刻を確認しようと携帯を開く、(うわっ、着信…)開いたときに紫先輩のおびただしい着信やメールが来ていたことに気づいたが、今度は1件も来ていなかった。ホッとしたと同時に、逆にそれがまた気味が悪かった。時間は19時前。佑弥くんでも誘って食堂に行こうと、着たままだった制服を脱ぎ、簡単な私服に着替えて部屋を出た。

部活が終わったばかりなのか、シャワーをあびたばかりだと思う濡れた髪にジャージという出で立ちで佑弥くんは自室から出てくると、それからたわいのない会話をしながら食堂に向かう。(そういえばいつ言おうかな…)ご飯を食べた後にでも言おう、とテーブルについてメニューを選ぶ。

「前から思ってたけどさあ、ひなって小食?」
「…佑弥くんが食べすぎなんだよ…」

今だって僕の前でスタミナ丼(なんかいろんなお肉がすごいボリュームでのってる…見てるだけでお腹いっぱい…)をおいしそうにほおばっている。その姿にはちょっと僕もきゅんときた。対する僕は和風スパゲッティをゆっくり食べている。

食後にしっかりと佑弥くんはデザートまで食べて、僕は紅茶を飲んでその様子を笑いながら見ていた。紫先輩とご飯を食べていた時には味わえなかった空気だった。
(大体高校生にセフレとか不健全すぎるんだよ…あんな修羅場、もう人生で経験したくないよ…)
―――言うなら、きっと、今だ。

「佑弥くん、あのさ、」
「ん?」

「ひなっ!!!!逃げて!!!!」

意を決して昼休みに言えなかった言葉を言おうとした時、今度は彼氏の元に言ったはずの満が必至な形相で食堂に駆け込み叫んだ声で、またも僕は口をつぐむ。何が何だかわからないまま満に手をひかれ無理矢理席を立たされ、佑弥くんを残したまま食堂を出ようと出口に連れて行かれる。

「み、満っ!?どうしたのっっ!!?」
「紫先輩が来た!!!!」
「―――え……っ!?」
「日生(ひなせ)の魂胆に気づいたんだよっ!!日生が紫先輩と――っ」


「自然消滅を狙ってることも、どーやらイイ相手がいることも、なあ?」
「「―――――っ!!!!!」」

食堂を出ることはできなかった。
満と僕の進路を遮るように壁に体をもたれ、腕を組みながら優雅に口に孤を浮かべている人物。

「なァ、誰と誰が自然消滅なんだって?」

――目だけはぎらぎらと鋭利に、射抜くようにこちらを見ていた。


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