∴ 03

「わーその話乗りました!」
「よかった」

めくるめくヒモ生活を夢見てにやけてしまう。
なんて素敵なクリスマスプレゼントなんだ!ありがとうサンタさん!

「でもずっとここにいるわけじゃないですよね?いずれはまたどっか転勤とか…」
「まあそれもあるかもね」
「じゃあ瑞貴どうするんですか。見てくださいよ、本気ですよあの顔は」

くいっと親指で悠仁が指し示したときのおれは、妄想にふけっていた。
―――じゃあ引っ越しの準備しなきゃなあ。うふふ。
引っ越しパーティーとかやろうかな。悠仁と誰か呼ぼうかな。あーたのしい!今まで悩んでいた悩み事が解消されるこの感じ!

「ごめん転勤になったわぁじゃあな、とか言ったら瑞貴死んじゃいますよ。就活放棄したんですから…。それなら今のうちに冗談だったって言っといたほうが傷が浅いと言うかなんというか…」
「いい友人だなあお前は」

悠仁が言ってくれた忠告も、五十嵐さんには通用しなかったらしい。
あとから悠仁が教えてくれた。
それよりもお前やばいなって若干憐みの顔でおれを見つめてくる。

「なんで?」
「捕まっちゃったな…。まあお前が女になっても俺はお前の友達でいてやるから」
「??」



そして本当にこっちに配属になった五十嵐さんがおれと暮らし始めるようになったのが、1週間後。どんちゃん騒ぎをして大家さんに怒鳴られたあとだったから、逃げるようにおれは五十嵐さんが借りた家に転がり込んだ。

「わー広い!すげえカウンターある!わっユニットバスじゃない!最高!!」
「稼いでますから俺」
「うおおーー!ベッドも広い!!」
「はは」

ぼふぼふ飛び跳ねたり散々遊んだあと、ふと気づく。

「あれ、五十嵐さんおれの部屋は?」
「?」
「いや、だって、おれの寝る部屋がない……」

まさかおれ、リビングにあるあのソファ?まあふかふかだしおっきいしいざとなればあれでも寝れるけど…。

「さっき飛び跳ねてただろ?あれだよ」
「え?じゃあ五十嵐さんは?」
「俺もあそこで寝る」
「???」

どゆこと?五十嵐さんもわけがわからないといった顔でおれを見てくる。

「え、一緒に寝るの?」
「当然だろ?」
「えーーっ!」

じゃあお互い恋人が出来たときとかどうするんだ!ていうかおれが連れ込むときはどうするの!?

「お前部屋に女連れ込む気だったの?」

うわっ、怖い!でも確かに、ヒモだったおれ。ルームシェアじゃないもんな、家賃折半じゃないし。それなのに連れ込むとかおれだったら怒るわー。

「ごめんなさい五十嵐さん。ホテル行きます」
「ちげえよ」
「えっ」

反省したのにまた怒られた。なぜ。

「ヒモっていうことは、掃除洗濯料理、あともう一個やることあるだろ?」
「え?」
「性欲処理」
「……へ?」

耳慣れない単語が聞こえて唖然としてしまう。

「せ・い・よ・く・しょ・り」
「ひえええええ」

見たくない現実がまた出てきた!!いや!!

「い。五十嵐ジョーク?」
「ちげえよ。ヒモなら当然だろ?」
「はあああーいおれヒモやめまーーーす!!!」

なんてことだ!ヒモのが悪条件じゃないですか!

「じゃあ付き合え瑞貴」
「え?それは無理です男同士だし」
「それはわからねえだろ?」
「え?」

思わず何言ってんだこいつという目で見ると、ぐっと手首を掴まれ引っ張られる。あれ、そっちってもしかして、

「やっぱりベッドルウウウウム!!!」
「さあて瑞貴」
「へっ」

しゅるりとおれの苦手なネクタイをいとも簡単に解くと、それをおれの手首にかける、ってそれ使い方違うからね?


「さあてクリスマスプレゼントをやるよ」
「えっ?な、なにを…」
「瑞貴は子宮がほしいんだよな?いっぱい注げばもしかしたら作れるかもしれないぞ?」


そ、んなわけねえだろ!!!
にやりとおれを見つめる雇用主。抵抗する手段は全部ふさがられて。
昼過ぎからの情事は真っ暗になるまで終わらなかった。


「まだまだ足りないだろ?」
「も、むりで…」

がらがらになった声も無視されてまた組み敷かれる。

――――――とんだブラック企業に勤めてしまった!!!!!




おわり


これがクリスマス小説って言ったら怒りますか?
お久しぶりです。ひつは元気です。
わたしも働きたくないと思いながらも今日を生きています。


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