∴ 02

「まあまだ日が浅いんだし、あきらめずに頑張れよ」
「ううーーー」
「ほら、ふざけたこと言ってないでやるんだよ」
「ううううーー」
「唸るな」

酷い友人だ。それでもがんばれないよおれは。

「2月から本気出す」
「それやらない奴じゃねえか」

びしっと鋭いつっこみを浴びせられる。だって嫌なものは嫌だ。

「働くの、向いてないんですよね…」
「人間失格だな」
「ひどい」

バイトはできるんだけど、社会人は違うじゃん、責任とか。おれやだもんそういうの。それに男は競争社会だろ?事務とかいけないんだろ。営業とか無理、おれ。

「甘ちゃん」
「…じぇじぇじぇ」

分かってるけどつらいからやだ。

「だからおれヒモになる。おれを養ってくれる女の子と付き合う」

お家のことならできるんだ。料理は好きだし掃除も得意だし洗濯もできる。
ていうかおれが女の子だったら完璧だった。おれ完全に性別間違えて生まれてきた。

「あー子宮がほしいー」
「ごほっ」
「え?」

ひとりでに呟いた言葉に、今度は五十嵐さんが咳込んだ。悠仁は二回目だから耐性があったみたいだけど、遠くを見つめてた。「俺はこいつとは無関係他人無関係他人…」ぼそぼそなんか言ってるけど意味わかんないからほっとこう。

「…なに瑞貴、お前子宮ほしいの?」
「あれ、さっき説明しなかったの?」
「言えるかばかやろう!」

てっきり悠仁がそのくだりも話してるかと思ったけど、そんな恥ずかしいこと言えるかって怒られた。意外と純情な男の子だったんだな悠仁。さては童貞かあいつ。

「クリスマスプレゼントは子宮が欲しいってレベルです。おれ家事能力完璧なんですもん。ね、悠仁」
「……確かに飯はうまいし掃除も洗濯もきちんとしてたな…」

前もこの話をしたときに、嘘だって失礼なくらい驚いていた悠仁を見て、論より証拠だっつっていたれりつくせりの1日を提供してやったんだ。朝ご飯も和食作って、風呂に入ってる間に着替えを出す、ベッドメイキングも完璧。あいつ1週間くらいおれの家から大学通ってたもん。

「…なんだ悠仁、瑞貴と暮らしてたのか?」
「一週間だけですけど。さすがに追い出しましたー」
「ふうん」

バイトくらいならするんだけどな。正社員だったら話は別だ。
「そうだ五十嵐さん。五十嵐さんの職場に、バリバリのキャリアウーマンとかいないんですか?むしろわたしが養ってあげるわ!ってくらいの人」
「…あー、いることはいるけど」
「紹介してくださいっ!!」

食いぎみに答えると、若干引いてる五十嵐さん。

「あー…検討しとく」
「おねしゃす!」

3コマ目が始まる時間だから、食堂はがらんとすいている。冷静に考えるとわりと人ごみの中で恥ずかしいこと言ってたんだなあおれ。ちょっと反省。

「そういえば俺、今度からこっちに戻ってくることになったんだよね」
「え!まじですか!」
「うん」

おおーと喜ぶおれと悠仁。

「そんでさ、瑞貴」
「はい?」
「割と激務なんだよね。俺のとこ」
「へー大変ですね、やっぱ社会人って」
「うん。まあ大事なのはこっからなんだけど」

きょとんとするおれと悠仁。にっこりと満面の笑みを浮かべると五十嵐さん。

「家事してくれる奴募集してんだよね。瑞貴、俺のヒモになる?」


まさかの。


「え!五十嵐さん!いいんですか!?」
「駄目に決まってるだろ五十嵐さんの冗談だよ!」
「いや、これ本気」
「「えええええ」」

おれは歓喜で、悠仁は驚愕で悲鳴を上げる。

「ヒモになったらおれ、就職しなくてもいいんですかっ?」
「うん。俺わりと稼いでるんだよね」
「えっ五十嵐さん本気ですか、えっ」

お前くらいなら養えるよ、ってかっこよすぎる五十嵐さん!


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