∴ 03

「いやーでも俺しないよ?絶対」
「信用できない」

仁王は下半身も暴れん坊だって聞くし、実際最近は確かに大人しいけれど、それでも3か月くらい前までは酷かった。
飄々としている仁王は僕にとって気楽な友人だった。

「うーん、じゃあ浮気したら100万払う」
「………それでもやだ」

100万とかぽんって言っちゃう仁王はすごい。
だけどそれでも僕は首を縦に振ることはできない。


「なんで」
「だって、仁王いなくなるのやだもん」

今まではお金になるって割り切ってたから、別によかったけれど。
仁王は違う。浮気されるって、やっぱり悲しいしつらい。今までの彼氏たちは好きじゃなかったから、そんな現場見ても大丈夫だった。

でも。


「仁王が浮気してるとこ見たら、僕、泣いちゃう」


お金請求しようとか、そんなこと考えない。まず言葉より先に、感情が露わになる。
誰の前でもなきたくないのに、僕は仁王の前だと弱くなるから。


「…糸」
「僕ってなんだろ、浮気されやすいのかな。なんでなんだろ。別に付き合ってる時はその人の恋人ってこと自覚してちゃんと行動してるのに」


好きではないけど、それなりに情は沸く。今まで3か月以上は付き合ったことないけれど、僕って環境に適応しやすいから。
仁王が俯く僕にどんな表情をしているのかはわからないけれど、声からして同情しているのだと思う。
仁王とはキスもできるしセックスもできると思う。それは今までの人と一緒。だけど違うのは、本当に大好きだから。恋人としてというか、人間として、僕が信用している人だから。


「今までは付き合ってないから平気だったけど、いやだもん。僕、泣いちゃう。そんで僕、もしかしたら仁王殺しちゃうかもしれない」

たかが浮気で大げさすぎるかもしれないけれど。



それまで一度も言葉を発しなかった仁王が、唐突に僕を抱きしめた。


「あーーーーー糸、本当にたまらねえ」


むぎゅむぎゅと手加減なしで抱きしめてくるから、たくましい胸筋と挟まって痛い。


「大丈夫、俺ほんとに浮気しないし。信用できないんだったら、ずっと俺のこと見張ってて、死ぬまで」
「……うぐ、し、ぬまで…?」
「そう!それでほかの男とちがうって、わかるでしょ?」
「………」
「ね?」

更にぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。このままじゃ圧死してしまうと思った僕は、こくりと小さくうなずいた。

「やった!ほかのやつと違うとこ見せてやるから」
「…うん」


僕は内心、この時点でもうほかの人とは違うよ、なんて考えた。




おわり


うーーーん。不完全燃焼。
何回お金のこと言うんだ糸ちゃん。
仁王はぶっとび。糸ちゃんかわいくて仕方なくて勢い余って殺しちゃいそうになるほどすき。


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