∴ 02

「お、目標金額達成か?」

彼氏の部屋を出て、そのまま真っ直ぐ仁王の部屋に向かう。
鍵が開いてることは知ってるからそのままノックもせずに仁王が座っているソファに向かって、後ろからむぎゅーと抱きつく。

「うんー。これでお母さんとお姉ちゃんにプレゼントするんだー」
「ふーん。喜ぶなーきっと」

仁王は僕の一個上のセンパイにあたる。だけど不良すぎて留年したとかで、今は同じ学年にいる。
アッシュに染めた肩まである髪を今はハーフアップにして煙草をふかしている。もちろん仁王は未成年だし、この髪色は校則違反。
僕が煙草が嫌いだって知っているから、入ってきたときにすぐ灰皿に火を押し付けていた。

「仁王、煙草もうやめなよ」
「口寂しくなるだろ」
「飴でも舐めてればいいじゃん」

自分に匂いがつくのがいやなのだ。僕は。
仁王は煙草を吸ってもそのまま出歩くから、また謹慎でもなったらどうするんだと僕は気が気じゃない。

「じゃあ糸がキスしてくれればいい」
「わかった」

仁王となら別にキスくらい平気。
しれっと僕が返答すると、それに仁王が固まった。めずらしい。

「…まじ?」
「うん」
「糸ちゃん的には浮気じゃねえの?」
「なんで?僕もうフリーだもん」

周りから見れば彼氏かもしれないけれど、もう僕にとってあの男は金づるだ。金づる兼彼氏。10万が歩いているようにしか見えない。


仁王はちょっと考えるように天井に目を向けると、それから僕の方をまっすぐ見つめる。

「じゃあしちゃお」
「んっ」

ちゅっとリップ音が響く。
経験豊富な仁王らしくない子供っぽいキスに、無意識のうちに眉を寄せていたみたいだ。

「そんな顔しないでよー糸ちゃん。俺煙草吸ったばっかだからさぁー」
「じゃあいい」

煙草くさいキスはいやだ。


「なあ糸。俺金持ちだし、そろそろ俺と付き合わねえ?」
「えー…やだなあ仁王とは」
「なんでだよ」


確かに仁王はお金持ち。寄付金もいっぱいしてるから、教師たちも仁王には何も言えない。そういうところなのだ、ここは。だけど校内で派手に暴れたから、留年にはなっちゃったけど。


「だって僕と付き合う人みんな浮気するもん」
「えー。俺はしないって。もう糸以外には勃たないもん」

ぶつくさと言いながら下半身を僕に押し付けてくる。うわ、でか。

「でもそうやって言ってきた人、みんな10万円に変わったよ」

卒業していったセンパイも、1年間片思いしてたといったコウハイも、みんな。


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