∴ 01

恋人が浮気した。
もはや無意識のうちに彼氏の部屋に向かうと、ベッドの上で絡み合う男二人。
僕に気づいて組み敷いていた男から抜くけど、それよりも僕はこの部屋に充満した青臭い匂いがどうしても我慢できない。



「ちがうっ!これは…!」
「なにが違うの?」


本当に、何が違うのか。
百聞は一見にしかずというかなんというか、現行犯なんだからみっともないマネはしないでほしい。


「別れないでくれ…っ!」
「え、うん」
「お願――え?」


土下座をしながら僕に募る男が顔を上げて、僕を驚愕のまなざしで見る。


「別れないよ、こんな金づる」

にこり、と笑顔でそう言ってやった。


浮気1回10万円ね。
告白されたとき、僕はいつもこう言うようにしている。
浮気なんてしないよ、と怒る人もいれば、僕しかいないと歯の浮くようなセリフを言う人もいれば、呆然としてなにも言い返さない人もいた。
それでもみんな、いつの間にか浮気している。


ある人は他校の女子と、ある人は同じクラスの男子と、後輩と。
まるで呪いにかかったみたいに、僕と付き合うとそれまで誠実だった人も浮気をする。もう一種の才能ではないかとさえ最近は思ってきた。
それで始めたこの話。
生徒会に属している僕は、バイトなんてする暇がない。
しかも一般の特待生でこの金持ち学校に入学したから、お金なんてない。


なにかいい手はないかと金欠に頭を悩ませていた結果。気づいたのだった。



「はい、10万円。言質もとってたし、拇印も押してもらった。証拠ならそろってる。証人もいる?なら、僕の友人の仁王(におう)を呼んでくるよ。それでいい?」


畳み掛けるように僕は言葉を続ける。
相手の反応なんておかまいなしだ。あと10万円で、母が欲しがっていた掃除機と姉のネイルアートのなにかが買える。夏休みは生徒会の仕事で実家に帰れなかったから、せめてもの僕の罪滅ぼしだ。



「なに言って、糸(いと)…?」
「別れないから、お金出して?」


聞こえなかったかな、とはいと右手を差し出す。
慰謝料として、浮気相手の子にも半分請求しようかな?



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