∴ 03

「それがすごいコンプレックスで…。相手はほんとにかっこいいんです…」

ここで写真をこっそり見せてもらう。会長に匹敵するくらいのイケメンだった。

「…実はおれ、そんな自分が嫌いで…。今まですごい仲良くしてたのに、写真見て、失望されちゃうかも…って思って…。だけどどうしても自撮りしても、なんかへんになるし……」
「はあ…」
「だから、森高さんみたいなプロに頼めば、なんとかなるのかなって思って……っ」

えっ。
その言葉に耳を疑う。
まず僕はプロじゃないし、名前が知られてるのにもびっくりした。

「森高さん、有名ですよ。写真部って副会長様が部長で敷居が高かったのに、さらに森高さんみたいな綺麗な人が入ったから…」
「えー…」

なんかやだなあ、それ。

「プロって言うのは?」
「えっ、だってそんな立派なカメラ、プロだから持ってるんじゃないんですか!?」

小原くんはアホの子だった。





「結局君は写真撮ったの?」
「あ、はい。食堂のデザートおごってくれるって言うんで。プロじゃないんでそう理想通りになんて撮れるわけないんですけどね」
「その子の写真ある?」
「あ、これです」

部長が見ていた写真の束から一枚ひょいっと掬ってみせる。

「…いや、別に悪くないよ。彼の笑顔を見てると、こっちまで笑えるような素敵な写真だ」
「ほんとですかっ?」
「うん。それでその子結局どうなったの?」
「それがですね」





「えっ付き合うことになったの?」
「は、はい…」

写真を撮ってから1ヶ月も経たないとき、こんこんと部室がノックされた。入部希望者かと思って少しそわそわしながらドアを開けると、小原くんが頬を赤く上気させて立っていた。
とりあえずアイスティーを淹れて小原くんを前と同じ椅子に座らせる。


「森高さんっ!森高さんに撮ってもらった写真のおかげで、おれ、付き合うことになりました!」
「えっ」


聞くと、僕の撮った写真をメル友の彼に送ってから数日後。
『写真の中の君の笑顔を見て、忘れられなくなった。会ってみてさらに好きだと思った』
なんて告白されたらしい。まーじか。

「だから、あの写真のおかげなんです。写真写りが悪いことがコンプレックスって言ってたんですけど、あの写真がきっかけに意識してくれたみたいで…」
「それは元々小原くんがかわいかったからじゃない?」
「絶対ちがいます!!!」

そう小原くんは言い切ると、僕が大好きだと言ったゴディバのチョコを置いて、ぺこりと頭を下げて立ち去った。



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