∴ 02

事の始まりは、僕が部長になってすぐのことだった。
いつものようにカメラを持ってぷらぷら放課後の廊下を歩いていた時だった。

(あ、シャッターチャンス)

カメラを構えてファインダーを覗きこむ。
カシャ、と軽快な音が響いて、自分の写真を見て満足する。
今度は何を撮ろうかな、とまた気ままに歩いていると、前から男の子が歩いている姿が見えた。
そのまま何も考えることなく通り過ぎようとしていると、突然話しかけられた。

「あっあの……っ!!」
「ぅえ、っ」

まさか僕じゃないと思って無視していたら、腕を引っ張られてびっくりして振り向く。
そこには、思いつめたような顔をして立っていた、これまた可愛らしい顔立ちの男の子がいた。


「写真を撮ってくれませんか?!!」



何が何だかわからないけど、とりあえず部室に男の子を連れて戻る。その日は僕一人だったから、とりあえずインスタントのコーヒーを淹れて渡す。しまった、夏なのにホット淹れちゃった…。
かちかちに緊張している男の子に、どうしたのかなあと思いつつなんて話しかければいいか分からなくてお互いに沈黙。とうとうそれが気まずくなったのか、コーヒーを一口煽って景気づけようとした男の子は


「あつっ、げほっごほっ」
「うわあごめん!」


まさか夏にホットが出るなんてまったく思っていなかったみたいで、盛大に火傷していた。


「君は話が長いよ。ここまでで君がアホだってことしか分からないけど?」
「うわあすいません!」

部長にため息を吐かれて、慌てて僕は少し巻きで話すことにした。


「それで?」
「それで…」




「ごめんなさい、ぼ、じゃなくておれ、1年3組の小原(おはら)って言います。突然呼び止めてしまってすいません」
「あ、いや、こっちこそコーヒーごめん…」
「いえ、そのおかげで緊張もほぐれましたっ」

ぺこり、と頭を下げてくれる。あらいい子。


「それで、なんだっけ?」
「写真を、撮ってもらいたいんです」
「なんで?」

それは当然の疑問だった。首をかしげる僕に、あわあわとしながらも一生懸命言葉を紡いでくれる。

「実はおれ、今度メル友の子と会うことになったんです。お互い顔も知らなくて、それじゃ困るねって写真を交換することにしたんですけど…」
「うんー」
「…それが、……すっごくかっこよかったんです、その人……」
「わお」

そりゃあこの学園って、ホモが多いって聞いてたけど、わお。

「あ、でも、別に恋愛感情とかそんなんじゃないんです。会ったことないし、それでどうこうなるのもおかしいし。…でも問題は、それじゃないんです」
「というと?」
「………おれ、写真、すごい苦手で……ていうか、写真写り、悪いんです…」

だから、交換するのが怖くて…。
そう伏し目がちに言う彼は、文句なしにかわいかった。







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