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「神子はつまり、国の繁栄を願うために呼び出された存在だろ。だから、その願いの力が一番集まるときに帰れるチャンスが来るんじゃないかって、ジアスさんやハイドさんに言われた」
「ジアスさんに、ハイドさま…」
「気づいたのが王位継承日の1ヶ月前だったから、超焦った」

あの日以来、ときどき王室に行くようになったのは、全部、僕のために―――?

「間に合ってよかった。神子は願いが叶ったら帰れるけれど、リオを俺の元の世界に連れてこれるかは賭けだった。だから、これをかけた」

そう言って僕の胸元にあるねくたいを引っ張った。反動でミツミさんの胸元に倒れ込む僕。慌てて離れようとするけれど、それをミツミさんの手が制する。
そんなの初めてだからびっくりして固まってしまう。こんなにもミツミさんと密着したのは、僕が泣いているときに慰めてくれたときや、添い寝をしてるときだけだ。
こんな意識がはっきりしているときにされたことはないから、どうすればいいのかわからない。


「神子の身に着けていたものをつけていたら、引き寄せられるかもしれないってクレアさんに言われて。よかった、ちゃんと道しるべになったみたいだ」

――クレア様まで。
あのとき泣いていたのは、僕との別れが惜しかったからだと、うぬぼれてもいいのでしょうか…。


「最初はクレアさん反対してたんだよ。つらくてもこの世界にいてほしいって。リオと会えなくなるのは嫌だからって。それを説得するのが今思えば一番つらかったかな」
「……クレア、さま…」

ぽろぽろと涙がこぼれる。
最初は僕のことを悪魔の子と罵っていたけれど、少しずつ歩み寄ってくださった。

「あのとき酷いことを言って、リオンを傷つけてしまってごめんなさい。王妃という立場に疲れてしまっていたの。本当にごめんなさい」

忌み子の僕に頭を下げて許しを乞う王妃さまの姿に、僕こそごめんなさい、と頭を下げたこともある。


「あ、あとこれ」

ばっと服をめくりお腹を見せるミツミさんから反射的に目を逸らすと、はは、と笑う声が聞こえた。


「見て、リオ」
「は、はい…」

差し出されたのは、母さまの白いセーターだった。



「これ―――…っ!!」
「俺も一応持っていたんだ。リオの持ち物。そうすればもっと元の世界に戻れる確率があがるかなってさ」

もう二度と触れないと思っていた。
嬉しさのあまりまた涙がこぼれる。

「あ、ありが、ありがとうございます、ミツミさん……っ」

ぽろぽろぽろぽろ。涙を零す僕の頬に手が触れる。
そのまま、顔に影が出来て、唇に温かさがともった。



「あの国では神子が悪魔に手を出すのは禁忌だったから。ずっとこうしたかったんだ、リオ」


カイルさまやセシルさまにされたときとは全然ちがう、あたたかさ。


「リオの唇、甘いね。はちみつみたいだ」
「――ミツミさまとおそろいですね…っ」
「そうだなー。漢字は違うけど」
「?漢字」
「あー」

ミツミさまのミツ。ハチミツ。おんなじだ。
ハチミツは食べたことはないけれど、どんなものか知っている。
黄色くてあまくて、きらきらしてる。
ちょうど、ミツミさんの金ぴかの髪の毛みたいに。


「これから一緒に覚えて行こう。ずっと一緒だもんな」


ミツミさんの笑顔が、僕は好きだ。



「――――はいっ!」




おわり



駆け足で終わらせた感はんぱないですが、初めてこんだけ長く書けた達成感でいっぱいです。




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