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「―――これは神子さま…」

カイルさまが少し眉を寄せてミツミさんを見る。新しい王の一言で場が締まるはずだったのに、それを台無しにしたミツミさんにあからさまに不機嫌な顔を向ける。けれどミツミさんはまったく表情を変えずに座っていた豪華な椅子から立ち上がる。


「それでは私からも、王位継承を祝って一つ」


神子さまの後押しは、この国だと神のご加護と同じだった。
とたんに盛り上がる国民たち。



「この国の災厄を、取り除いてあげましょう」


プリン頭って言うんだぞ、俺の国ではこの頭のこと。
金色の髪から僕とおなじ黒色が見えてきたとき、魔法が解けてしまったと残念がった僕に声をあげて笑ったミツミさん。
災厄の黒を、おそろいだと笑ってくれたミツミさん。
やさしく頭を撫でてくれたミツミさん。

思い返せば僕はミツミさんの笑顔とやさしさを存分に受けて今日まで生きた。
取り除くって、どうするんだろう。
消されてしまうのかな、僕の存在を。

なんとなく気づいていた。僕がここの場所にいることを許されたのも、神子さまが災厄を取り除くためだってことを。
ぎゅう、とねくたいを握りしめる。ああ、母さまの編んでくれた白いセーターと、できるなら共に消えたかった。



「わあああ!やっと消え去るのね!あの悪魔が!」
「ありがとう神子さま!!」
「はやく消えてほしいわ!」

ミツミさまの言葉を聞いて国民たちが歓声を上げる。僕への悪口は慣れていたはずだったのに、それでも最近は言われてなかったから再び傷ついた。


「ええ、消しましょう。
―――――俺と共に」




―――――――え?


動揺が、ざわめきが伝染する。

「俺と共にとはどういうことだ?」「神子さまも消えてしまうのか?」「どういうことだ?」
理解できないと、顔を見合わせて話し合う国民たち。


いつの間にかそばにいたハイドさまの側近のジアスさまが、動けずにいる僕の手を引き中心に連れて行く。自然と空いたスペースに、僕といつの間にかいたミツミさまが向かい合う。



「ミ、ツミさま…」
「また"さま"に戻ってる」


ふ、と笑うミツミさんは、神子さまではなく、僕の好きなミツミさんで。


「帰ろうか、一緒に」


その一言で、あたりが光に包まれた。
最後に見た景色は、涙を零すクレアさまを慰めるハイドさまと、傍に立っているジアスさん。
そして、呆然と立ち尽くすカイルさまとセシルさまの姿だった。





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