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王位継承でカイルさまは忙しいみたいだ。
ハイドさまから仕事の引き継ぎや国外への挨拶で、僕はとうとう当日までカイルさまを見ることはなかった。
セシルさまも当日の打ち合わせや、成人した途端に殺到する他国との付き合いに辟易しているみたいだった。僕にかまう暇もないと、1ヶ月驚くほど穏やかな日々を過ごした。


「あーー疲れた!俺まじで王族とかやってけないわ」

国民への神子さまのお披露目の式でもあるから、ミツミさんも忙しそうだ。
僕は城のお掃除を再開した。トイレやら馬小屋など、誰も掃除したがらないところばかりだったけれど、みんなが忙しいのに僕だけなにもしないのはだめだと思っていたからありがたかった。


「あ、リオ。そういえばハイドさんが呼んでたぞ」

2週間ほど前に、ベッドに寝そべるミツミさんからそう言われた。

「わかりました、明日お伺いしますね」

今日はもう夜も更けているし、日を改めよう。そう思って僕はうなずく。
ハイドさまに呼ばれるのは久しぶりだ。なんだろうか。
一抹の不安はあるけれど、ミツミさんも一緒だと聞き安心する。


次の日の朝、ミツミさんと一緒にハイドさまの部屋を訪ねると、驚くべき言葉を言い渡された。



――――そして当日。
僕は生まれて初めてこのようなお祝い事に出席することが許された。
いつもは僕のことを思ってくれたハイドさまとクレアさまだけれど、やはり僕を表舞台に出すわけにはいかないと、いつも部屋にじっとしていたけれど。
あのときハイドさまに呼び出されて言われた一言は、「お前もその日に出席しなさい」だった。
驚きで声が出ない僕の代わりにミツミさんが返事をし、あれよあれよと決まっていた。

こんなきらびやかな舞台に出るのは初めてでうろたえていたけれど、それは周りも同じだった。好奇な目は変わらない。それに他国からの人たちからの視線も浴びて、僕はどうにかなりそうだった。

久しぶりに拝見したカイルさまとセシルさまは少しやつれていたけれど、それでもこの国の第一第二王子としての仕事を立派に果たしていた。ミツミさんは神子としてハイド様の隣に座っていた。
だから僕の周りには誰もいない。隠れようにもこの黒髪はどこにいても目立ってしまう。
少しでもミツミさんの傍にいれるように、ミツミさんに一番近い壁際に縮こまっていた。いつも着ているぼろぼろの服じゃなくて、ハイドさまに見繕ってもらった洋服を着ているせいで、落ち着かない。
それに首元には、ミツミさんがつけていたねくたいというものがある。それがお守りみたいで、不安に思ったときはそれをぎゅっと握りしめていた。



「この国のさらなる繁栄を約束しよう!」


カイルさまとハイドさまが杯を交わし、きらきらと光った王冠と指輪を継承してからカイルさまが大きな声でそう言ったことで、会は締めくくられた。





と思ったら。



「じゃあ、私からも一つ」



わああああと拍手喝采があふれるお城の空気を割る一言を発したのは、ミツミさんだった。



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