∴ 03 「そういえばきくちゃんって、自分の写真は撮らないの?」 「と、らないです…」 「へー。プリクラとかも?」 「撮ったことないです」 「まじか!」 驚くセンパイは、たくさん撮ってそうだ。プリクラは男同士で撮るものではないと思っているし、写真は昔から撮る方が好きだったから。いつもカメラ係だった。 「えーじゃあ、ちょっと来てー」 ちょいちょいと手招きするセンパイの隣に素直に行くと、ぐいっと肩を引き寄せられる。 「わっ」 「はいチーズ」 「えっ」 怒涛の展開だった。 いつのまにかスマホを持っていたセンパイがななめ上にカメラを突き出して写真を撮っていた。 「きくちゃんの初めてゲーット」 ほら見て、と画面に映った自撮りの写真を見せられる。目を丸くしている僕と、きれいな顔をして笑っているセンパイ。 「はは、保存しておこーっと」 別に消しはしないけれど、恥ずかしい気持ちでいっぱいだ。 「かわいいね、きくちゃん」 「いや、そんな、」 こういうときなんて返せば笑いに持っていけるのか分からないから、どもるしかない。 「きくちゃんもこれから写真うつればいいのにー」 「でも、僕撮るほうが好きなので…」 「ふーん。あ、じゃあ俺と写真撮るときは写ってよー」 「は、はい」 「やったぁ」 なんでここまで僕とツーショットを撮ることに固執するのかわからないけれど、嬉しそうに笑うセンパイを見ると僕もふわふわ心が揺れる。 (かっこいいし性格もいいし、素敵なセンパイだあ) 憧れのセンパイだ。 それから心なしかセンパイの写真が増えていき、同時に僕とのツーショットも増えて行った。 「ツーショットは初めてだなあ」 スマホを見つめながらにやつく顔は、いつもの姿とはかけはなれている。 その中には黄色の花の絵文字がタイトルのフォルダが入っていた。 おわり ストーカーだったよって。 |