∴ 02


 休み明けはやっぱり人が少ない。心なしかいつもよりも静かな校舎を歩く。今日の授業は終わったけれど、空がきれいだから撮ろうと思ったんだ。

「あ、」
「…?」

 あてもなく歩いていると、前から橋爪センパイが歩いてきた。めずらしく一人だ。思わず声をあげてしまうと、スマホを見ていた顔がこっちを見つめる。
わわ、イケメン…。

「ああ、きくちゃん」
「は、はい、」

 センパイにきくちゃんって言われると、なんだか緊張する。そんな僕に気づいたのか、手にしていたスマホをポケットにしまうと、

「ごめん、みんなが君のことそう呼んでるから便乗して」

 いやだった?と首をかしげるセンパイに、そんなことないと首を振って返す。

「今日は何を撮るの?」
「あ、空がきれいなので…」
「あーほんとだ」

 どもりながら言うと、今気づいたと上を見上げて声をあげるセンパイ。

「下ばっか見てたから、気づかなかったよ。ほんとだ、すごい綺麗だね」

 この笑顔、写真に撮りたかったな。



 せっかくだから撮っているところを見たいというセンパイと一緒に、食堂の二階のテラスに行く。夢中で写真を撮っている僕の隣で、芝生になっている地面に寝転がるセンパイ。不思議な空気が流れる。やっと満足のいくものが撮れてファインダーから目を離したら、寝ていたと思っていたセンパイが僕をじっと見つめていた。
 退屈させてしまったのかな、と慌てていると、

「きくちゃんはいつも写真撮ったあと、そういう顔するの?」
「?」
「なんかにこって、めっちゃ笑顔になる」
「え、そ、そうなんですかね…」

 自覚していなかったけれど、確かに頬は緩むかもしれない。気づいたらなんて間抜け面なんだろうと恥ずかしくなっていく。

「かわいいね、きくちゃん」
「えっ、いや、その…」

 からかわれてさらに顔が熱くなる。


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