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 写真を撮るのが好きだった。
手に入らないものも、ファインダー越しだと触れられる距離になるから。

 趣味で始めたものだったけど、長年撮り続けていれば大会に出せば名前が載るくらいの実力にはなった。
昔は自然や食事とか無機物なものを今まで好き好んで撮っていた僕だったけれど、大学に入学してから人の多さに驚いてから、撮るものが変わった。
 
 もともと人見知りでただでさえ集団が苦手だったのに、高校とは比べようにもならないほどの人数に一瞬めまいがした。
親しい友人はぽつりぽつりとできたけれど、基本一人で行動するようになった僕は、ないものねだりと言われても仕方がないけれど、僕とは違ってみんなと笑いあっている人たちを撮るようになった。そうすれば、僕もその一員になれたような気がして。

 最初は大学内をカメラを持ってうろつく僕は奇異の目で見られていたけれど、今では僕がカメラを向ければピースをしてくれる人もいれば、さらには撮ってとねだられることもある。
今ではサークルのホームページや大学の広報誌に載せたいから、と仕事として依頼されることも多々あった。


 写真というものは不思議で、それだけでその中の人間関係やその人の性格が見える気がする。いつも中心にいる人、大口を開けて笑う人、少し控えめに後ろにいる人。
見返している中で僕は気づいた。この男の人の周りにはいつもたくさんの人がいる。
その人がうちの大学でかっこいいと噂になっている男の人だと知ったのは、撮り始めてから2ヶ月たったときだった。



「橋爪センパイでしょー。なに、きくちゃん気になるの?」
「や、そ、そんな」

 ある日勇気を出して、いつも撮ってとねだられる女の子の集団に聞いてみた。
その名前が出た瞬間、口ぐちに「いけめん!」「完璧だよねー」などと言った聞いてもない感想がぶわーっと出てくる。
 橋爪センパイ。法学部の4年生。中学の時から地元では噂になるほど端正な顔立ちの人。人気者。

「す、すごいですね」
「ねー!いやーん彼女いるのかなー。きくちゃん、写真にうつってたりするー?」
「え、」

 そういえば写真を見てみても、彼女らしき人は映ってなかった気がする。カメラマンの直感だけど。女の人と映っている写真はあるけれど、彼女というよりは友達とか、そんな雰囲気に見えた。

「そ、そんな人はいなかったと思います」
「えーまじで!あたし狙っちゃおっかなー!」
「えーずるー!あたしも!」

 女の子の熱気ってすごい。

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