∴ 10

「お前に帰り方を入れ知恵したものはなんだ?」
「イ、シュ…」
「なんだと聞いてる」

―――雲が晴れて、月の光が漏れる。
僕の上にのしかかっているイシュは、驚くほど無表情だった。

「図書館で読んだ本に、書いてあった…」
「ああ、…あの童話か。確かにあれの書いてある言葉は正しい」
「…じゃあっ!」

もう一度満月の夜に願えば、また戻れるということで。
また希望が持てた僕をあざ笑うかのように笑みを零す、イシュ。

「もう一回できると思ってるのか?」
「――――え」
「一度言ったことがあるよな。この国では受け入れる側には子宮が出来るから、世継ぎも生むことができる。男同士の結婚でも、だから可能だと」
「うん」

なんてホモに優しい国だって思ったんだ。

「話が早いな」
「…?」

ふっとイシュが笑うと、そのままキスをされる。
最初から舌が入ってくる粗々しいキスだった。舌の侵入を拒もうとしても、逆にそれを絡め取られる。

「ん、ふっ…!?」


「――――なあトワ」
「…っは、」

唇を離して息が乱れている僕とは違って、イシュは淡々としている。
さすが経験豊富、と見当違いなことを思った。

「こうするのは、結婚式後までとっておこうって、思ってたんだけどな」

下半身男のイシュが、僕と出会ってからほかの人を抱かなくなったとオリエさんから聞いた。へえーと僕には関係ないと思っていたけれど、違ったみたいだ。

「お前と結婚するから、ちゃんとした俺で初夜を迎えようとしていたんだが。―――だめだな、そんな甘い考えじゃ」
「―――――え」

右手が僕の制服のボタンに手をかけた。


「声を出さないようにするなら、3日3晩監禁してずっと喘がせてやればいい。
逃げられないように中に出して、俺の子供を孕めばいい。この世界に永遠に残るものがあるのだから。

そうすればお前は永遠に俺の元からもこの世界からも逃げれない。――なあ、素敵なおとぎ話だとは思わないか?」


かぐや姫も人魚姫もシンデレラも、なにも羨ましくない。
おひめさまになんて、僕は一度もなりたいなんて思わなかった。


「トワ、愛してるよ――――」


お妃さまも、なりたくないけれど。



おわり


書いてて魔王にしか思えなくなった。


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