∴ 08

鐘がなる。
結婚式の始まりだ。
だけどこれを逃したら、僕は一生戻れなくなる。そんな気がして。
お腹が空いた、喉も乾いた、ドレスが重い、足取りも重い。


だけど、階段を下り続ける。
お城から僕を探す声が聞こえた。
制服を抱えて、ドレスは途中で脱ぐ。邪魔で仕方ないガラスの靴は階段の途中でほかっておいた。
鞄を持って、制服を手早く森の中で着替える。


「はあっはあっはあっはあ」

極度の栄養失調で、脱水症状もあると思う。喉は焼けるように痛い。

庭に出る。
イシュごめん、綺麗って言ってくれたのに。
オルエさんごめん、綺麗に着飾ってくれたのに。
ここの世界の人たちは温かくて優しかった。だけど僕はやっぱり、元の世界に帰りたいんだ。


「―――帰りたいっ、かえ、りたいっ…帰りたい…!!!!」


もはや森だと思う大きさの庭に出て、満月を見上げて心の中で叫ぶ。声に出したら血が出そうなくらい、強く思った。
知らない間に涙が出てきて月がぼやけてきた。
ぎゅうっと目をつぶる。
そうすると温かい何かに包まれて、成功したのと思ったけれど。



「はあっ…はぁ、―――トワ」



見知った匂いと、息遣いに、僕は失敗したのだと思った。


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