∴ 06

―――――これだ。
僕は叫び出しそうになった声を抑えながらも、興奮して体が熱くなっているのが分かった。
おんなのこと僕の境遇がそっくりすぎる。ということは、月の妖精が言ってくれたことをそのままそっくりすればいいんだ……。
希望の扉がようやく開いた気がした。


「オルエさん、次の満月っていつ?」
「満月ですか?えっと、トワさまとイシュさまの結婚式の日ですよ。イシュさまそれを計算していたのかしら。我がアウラ国の満月は、月まで行けそうなほどこの国に近づくんですよ。だからとってもおっきいんです」
「……月まで行けそうなくらい、大きいんですか」
「はい。違う世界に行けちゃったりなんかして」

ふふ、となにをわたしったらという風に笑うオリエさんとは対照的に、僕は確信した。
―――満月の夜に、僕はきっと帰ることができる。



結婚式の3日前から、僕は童話の人魚姫のように、言葉を口にしなくなった。
突然そんな状態になった僕をオリエさんは泣きそうになりながらそばにいてくれたけれど、ただの風邪だと言うと少しほっとしていた。
よかった、この国には風邪はあるみたいだ。視力の低下がないくらいだから、みんな健康体ばっかだと思ってたけど。


「おい、口がきけなくなったのは本当か」

そんな状態が続いて2日、最後の最後にラスボスが来た。
もちろん返事なんてするわけない、こくりと頷くと、何か考えるようにイシュが腕を組み、僕のいるベッドの傍らにたたずむ。


「……まあいい、明日は予定通り結婚式を行うからな。言葉がしゃべれなくなろうがどうでもいい」

そう言うと、不敵な笑みを浮かべて去って行った。

イシュがいなくなって、ようやくため息を吐く。
あと1日で、この世界ともさようならだ。





オルエさんが言っていた通り、すばらしい満月だった。
日本で見るのとは比べようにもならないほど大きくて近い。
かぐや姫の月みたいだ。

僕は黙ったまま、ウエディングドレスを着せられ(何回確認してもドレスだった)、髪をとかされる。花があしらわれたブローチなどでまんべんなく飾られる。
ここに来たとき、着ていた服は高校の制服で、鞄の中身は特になにも変わっていなかった。
制服を着て、鞄を持っていけばこの世界からおさらばだ。
3日も断食をしたせいで、お腹がすきまくっている。思考回路も鈍い。だけど帰れるという希望があるから、僕はここまで来た。




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