∴ 05

――――ひとりぽっちの女の子は、目が覚めたらおひめさまになっていました。
おうじさまだと名のるひとは、女の子を見て、「ぼくのおよめさまだ」と言いました。

それからおひめさまは、きらきらきらきら、みたことのないきれいな宝石やお洋服、ほかほかのおいしいご飯を食べました。前とはちがう、夢のような時間でした。

だけどやっぱり女の子はおひめさまにはなれないと思いました。
女の子は、おひさまのしたでめいいっぱい遊ぶのがすきです。畑を耕すのも、じゃがいものスープをのむのも、青空の下で寝転ぶのも、だいすきです。

だけどおひめさまは、そんなことはできません。
女の子は、おひめさまにはなれるけれど、女の子には戻れなくなります。
きれいなドレスをきて、すてきなおうじさまと結ばれても、女の子にとってそれはハッピーエンドなんかじゃありません。

かなしくてかなしくて、しくしくとひとり泣いていると、女の子のもとに、月の妖精が現れてこういいました。

「かわいそうな女の子。わたしがあなたをたすけてあげましょう。だけどチャンスは一度きり。
たましいは、一つの場所でしか結ばれない。二つの場所にあっては、だめなのよ。
それならば、二つのあなたを一つにしてしまいましょう。

よくお聞き。かわいいかわいい女の子。
あなたはこれから、この世界でなにも口にしてはいけませんよ。
ご飯もお水も、もちろん言葉も。
そうして沈黙をちょうど満月の夜が3日目になるまで続けましょう。

そしてあなたがここにいたというものをすべて集めて、帰りたいと強く願いましょう。

――――そうしたらあなたは、ただの女の子にもどれるわ」


そうして女の子は、ごはんを食べることも、おみずを飲むこともなく、それから3日間、病気にかかったふりをしてなにもはなさなくなりました。
しんぱいそうに見てくるおうじさまやメイドさんにはわるいと思いながらも、おんなのこはじっと満月を待ちました。


そうして3日目の満月の夜、女の子が着ていた洋服も靴も髪留めも、すべてすべて小さなカバンに詰め込んで、このお城になにものこっていないことを確認して、女の子は目をつぶって祈りました。

そうしてあたりはまばゆい光に包まれて、目を開けば女の子は、おひめさまではなくなっていました。



かなしみにくれたおうじさまは、おひめさまを探すけれど、二度と見つかりませんでした。




おわり



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