∴ 01 浅羽時昌(あさば・ときまさ)とこういう関係になって、もうすぐ一年がたつ。 今岡恵(いまおか・めぐみ)は、自分がなにを言っても怒らない時昌を、それはそれは良いように使っていた。 周りから見れば、寡黙で長身の時昌と小柄でハーフの恵は、その容姿と立ち振る舞いから「姫と騎士」だと揶揄されていた。 「時昌あ、喉かわいたー。なんか買ってきてー」 「わかった」 「えーこれ甘いじゃんー。ボクはなんかすっきりしたの欲しかったのにー」 「…」 なんでもいいと言ったのに、帰ってきてからそう否定されるのは日常茶飯事。 「恵、次移動教室だぞ」 「えーめんどくさあい。時昌ー、次サボろー」 「……」 眠いからおんぶしてーとねだり、大きな背中に身を任せることも多々。 クラスメイトたちは恵のあまりにも傍若無人な振る舞いに、何度も時昌を心配した。実際に声をかけて恵のことについて文句を言う人もいた。 それでもいつも時昌は何も言うことはない。 何か弱みを握られているのではないかと、だから黙って従ってるだけなのかとも思った。 「時昌!」 「ああ」 ああ、また姫様が騎士を顎で呼ぶ。 「転校生?」 くりくりとした目を瞬かせ、恵が時昌に問う。 「ああ」 時昌の膝の上に乗ってお菓子を食べながら、恵はふうんと声を漏らした。 「可愛いの?」 「知らない」 「もー使えないなあ」 時昌にあーんとしたポッキーを、寸前でぱくりと食べる恵のからかい方はいつも通りだった。 「初めましてっ」 それから1週間もしないうちに転校生がやってきた。 恵程ではないけれど可愛い顔をしていて、何より自己中ではない控えめな性格の持ち主だからか、あっという間に人気者になった。 最近では生徒会も転校生の虜になったらしい。 姫様は大層お怒りだろうと思ったが、時昌といつも通りじゃれている様子からはそんな動揺1ミリも感じられない。 「ねー時昌ー。これおいしそーじゃない?今度たべにいこー」 「ああ」 まるで恋人同士のように、いちゃいちゃしているのだった。 |