∴ 05

「お前の住んでるボロイアパートなんて、セキュリティなんて言葉皆無だし。ちょっと色々いじれば、簡単に中に入ることできるんだよ?」
「―――――え」

ギシリ、と床が鳴る音がする。近づいてくるのが分かるけど、恐怖に足が縫い付けられて動くことができない。

「盗聴器とか、カメラとか。いろいろ仕掛けて毎日夜のオカズにしてたんだけどさあ。どんどん欲が膨れてくんだよね」

そうして中にまた引き戻され、また向い合せで座らされる。
―――カメラ?盗聴器?なにそれ。
いつから、どうして、なんで、え、え、え。
混乱しているこんな状況じゃ酒なんかに溺れることなんてできるはずがない。
佐原さんはぐびぐびと次々にお酒を飲み干す。急性アル中とかにならないでよ、と少し心配になったりする。

「会いたいと思って会えたら話したくて、話せたら触れたくて、抱きたくて、めちゃくちゃにしたくなって、―――俺のモノって刻みつけたくて、たまらなくなる」

酔ってるから、目がうるんでる。表情には出ないのか普段と変わらない顔色に、目だけが熱くおれを見据える。この人は酔っているから、なのにまるで、欲情した獣のようにおれを見つめるから、いつの間にか手のひらを固く握りしめていた。

「お、れ、帰ります…っ」

さっきは太刀打ちできなかったけど、酔ってるこの人は簡単に抵抗できるはず。
さっき窓の外から連れられた時、振りほどけるほどの力しか入っていなかったから。

そう言い捨て玄関に早足で向かう。靴なんか履く時間も惜しいからかかとを思い切り踏みつけて、ドアを開ける。あまりにも焦りすぎていて、鍵は開けたのにチェーンを外すのを忘れていた。だけど震える手じゃ、なかなか外せない。

「しゅん」

背中に投げかけられる声。後ろを振り向いたら、少し離れたところでおれを見て立っていた。

「ねえ、別に逃げてもいいけれどさ」
「っ」
「俺、どこまでも追いかけるから。――――覚悟しておいてよ」

その時の笑顔は、どこまでも怖かった。



慌てて飛び出して当てもなく走る。自分の部屋には戻れない、気持ち悪くて。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。

住み慣れた街なのに、一人の男によって、変わってしまった。
これから毎日、どうすればいいのだろう。


「さあて、これで俺が酒に弱いって瞬は勘違いしてくれたし。…色々、行動しやすくなったかな」

さて、24時間無期限の追いかけっこ、開始。


おわり


だからホラーエンドはだめだって。。


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