∴ 04 「いや、あなた誰なんですか…?」 「あー。自己紹介まだだっけ。どーも、佐原琉生(さはら・るい)です。年は瞬の5個上かなー」 「いやいや、名前とか年とか聞いてるんじゃなくって……おれ、あなたとは昨日初めて会いましたよ、ね…?」 戸惑ってるのは見知らぬ人だからだけじゃない。なんでナチュラルにこの人はおれを名前呼びして家まで呼んで、つかほんと昨日コンビニに来ただけなのに。 まるで前からおれを知ってるかのように、目の前の人はおれに話しかける。 「まあソファ座ってよ。朝から酒飲むっていうのもいいでしょ?」 「え」 ずらーっとローテーブルの上に酒が並んである。いや、飲めとか言われても…。 おれが戸惑っていることなんておかまいなしに、プルタブを開けると飲み干す佐原さん。呆然とその動きを目で追っていると、酒で濡れた唇をぺろりと舐め、おれを見る。心臓がどきっとしてしまった。恐怖で。なんか嫌な予感がする。 「ずっと見てたんだよねー瞬くんのこと」 「………え」 「あそこでバイトしだした3か月くらい前から、ずーっと。昨日が初めてじゃないのになあ、コンビニ行ったの」 「え、それは、すみません…」 悪いと思ってるなら飲んでよー。 この人の笑顔、なんか断りきれないな…。勧められるままに発泡酒を開ける。 「あの頃からいいなーと思ってて」 「…え」 「最初はあの綺麗な女の子と喋ってる君が目について。今まで女にしか興味なかったから、当然俺もあの子に惹かれてるのかと思った。だけどさあ、違うんだよね」 そこでまたもう一本缶を開けると飲み干す。 「あのいつもうるさい男の子と一緒にしゃべってる君を見て、あの子と仲よさげに肩とか叩いて笑ってる君を見て。……とてつもなく腹が立ったんだよねえ、あの男の子に」 「―――え」 うるさい男の子は間違いなく明紀だ。 いきなし方向がおかしくなってきた世間話に、冷や汗が出る。 ヤバイ、この人。 見たところ缶2本で酔ってるみたいだし、そこまで強くないみたい。 ここは早々潰して早く逃げよう……。 そう判断すると、おれは極力明けた1本を大切に飲むことに決めた。 「俺はさあ、君に惚れたんだよ。キスして喘がせて突っ込んでよがらせたいし、君専用の部屋まで借りちゃうくらい愛してんだよね」 「……え?」 …おれ専用の部屋……? きょとんとしたおれに気づいたのか、佐原さんはニヤリと笑う。コンビニで見たときの笑顔とはまったく違う、さわやかさのカケラもない笑い方。 「ここのベランダからさあ」 「…?」 「お前んち、よーく見えるの」 バっとベランダの方を向くと、衝動的に窓に駆け寄り開ける。 確かに、おれの部屋が、よく見える……。 |