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「吉瀬(きちせ)ー、今日飲み会くるだろー?」

大学の講義が終わり、そのまま何も予定がないから家に帰ろうとすると、後ろからよびとめられる。振り向くと、サークルで一緒の伊藤が立っていた。

「あー…今回はパスだわー」
「あー!?なんでだよ、吉瀬来ねえのかよ」
「うるせえこちとら死活問題なんだよ」

おれだって行きたかったさ……!だけど、大学から一人暮らしをしているおれとしては見過ごせない重大な問題がある。

「なんだ吉瀬、金ねえのか」
「ないいいい」
「ははっ、ザンネンー」
「お前ここで奢るとか言わねえの!?」
「給料日前だしなー。また今度飲もうぜー」
「……おう」

爽やかに伊藤は笑うと、そのままおれの肩を1回叩いて去って行った。
……くそう。
おれだって飲み会行きたかったし、今日は金曜日だから好きなだけ飲めるっつーのに。
仕送りは食費やら家賃やらで消えるし、遊ぶ金をためるにはバイトをするしかない。
大学2年だけど、彼女なんて作る暇なくてもはやバイト充だよおれは。



今日は掛け持ちをしているバイトの一つであるコンビニのバイトに行く。
時給がいい深夜にしか入らない。おれの家からそこのバイト先までは徒歩5分だけど、いかんせん道が暗いし人通りも少ない。物騒だなあと思いつつ、明るい店内につく。無意識のうちにため息をついていた。大学から帰ってバイトのために寝だめしておいたから体調は万全だ。


制服に着替えてレジに入ると、このコンビニのマドンナの美人と評判が高い由梨奈(ゆりな)ちゃんがいた。

「え、めずらし。由梨奈ちゃんともしかして一緒ー?」
「2時間だけねー。明紀(あき)くんがお休みだからさー、延長させられたー」
「なんでー?」
「昨日合コンで馬鹿騒ぎして、酔っぱらって外で寝てたら風邪ひいたらしいよ」
「さすが明紀…」

由梨奈ちゃんは長い睫を伏せて笑う。やっぱ可愛いわーと思いつつ明紀という同い年のお調子者のバカ男の顔を思い浮かべる。
合コンに行きまくってるのになかなか彼女ができないって嘆いてる、呆れるくらいバカだけど憎み切れない奴。
明紀と言えば馬鹿っていうのはみんな持ってるイメージだけど、風邪引く原因も馬鹿極まりねえ。

「えーじゃあ二人きりじゃんー」
「そうね」

でれでれするおれに淡々の返す。
由梨奈ちゃん年下なのに超大人っぽい。すきだわー。


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