∴ 13

「ゃ、こ、来ないでくださ…」
「今日はもう何もしない」

怯える僕ににやりと笑うと、そのまま起き上がってベッドに腰掛ける。長い脚を組み、僕を見つめる。

「お前は俺がこれから飼ってやろう」
「………え」
「これからのたれ死ぬ運命よりは、最後まで人間として生き延びる道を選んだ方が賢明だと思うが……?」
「か、飼うって、どういうこ……」
「言葉のとおりだ」

再び熱のこもった目で僕を見下ろすと、僕の頬に指を滑らせる。慣れない行為に肌が粟立つ。
カイル様にはこういったことをされることはたまにあったけれど、セシル様は初めてだ。どういう意図でこんなことをしているのか全く分からない。怯えを孕んだ眼で見つめ返すと、じっと目を逸らさずに見てくるから居心地が悪くなる。

「俺しか見えないところで、俺に世話をされ一生を暮らす。そうすればお前は俺以外の奴の視線にさらされることはないし、衣食住は困らない」
「え…せ、セシル様は…」
「俺はきっとどこかの国に行くことになる。なあに、秘密裏にお前をその国まで連れて行ってやるよ。…そうだな、城の地下室なんかに行けば、大丈夫だろう……?」
「―――――っ!?」

どんどん話の方向がおかしくなっていっている。
飼うって、なに。地下室って―――?!

「兄さんはこの国から出られない。俺はここの国を継ぐ気なんてまったくない。お前もこんなところにいるのは嫌だろう?誰にも見せることなく、俺一人がお前を世話してやるよ―――。なあ、リオン」


嬉しいだろう?
ミツミさんとは違う、全身に鳥肌が立つような不気味な笑い。


――――異常だ――――。

ぞわわと背筋に悪寒が走る。
こわい、こわい、こわい……!!!
今までやられたどんな嫌がらせよりも、効果がてきめんだ。
僕は無我夢中でベッドから降りると、部屋の鍵を開けてミツミさんの部屋に向かった。
何をしにこの部屋に来たかなんてすっかり忘れて、僕は安住の地に逃げたのだ。


「はは…飼い殺しにしてやる」


僕のいたベッドを見つめながら、にやりと笑うセシル様が目に入らないように、一度も振り返らなかった。


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