∴ 12

なんだか違和感を感じながら恐る恐る中に入る。

「ベッドも…」

ほこりなんかかぶってない。誰かが掃除してくれたのかな…?でもそんなことをしてくれる人なんて、誰も思いつかない。
――というか、圧倒的に物が少なくなってる……。
ベッドだけで大半の部屋の面積を占めているから、気づくのが遅れてしまったけれど。あそこに置いてあった椅子も、鏡も、小さなクローゼットもなくなってる……。

「…どうして?」

呆然とし、それしか言葉が出てこなかった。誰もいないからそれは独り言だったはずなのに、後ろから僕じゃない声がした。


「それは俺と兄さんが運び出したからに決まってるだろう」
「―――――えー――?」

ばっと声がした方に振り向くと、静かにセシル様が立っていた。
カイル様はいない。一人でも怖いのに、二人揃っていたら最悪だ。その事実にちょっとほっとしていると、セシル様がにやりと口角を上げて笑った。

「お前はあの異世界人と親しくして立場を忘れているな…」
「……え?」
「お前は悪魔の子だ。この国の災厄だ。それを祓いに来たのがあの異世界人ならば、必然的にあいつのこの世界に来た目的は、お前を消すためだと―――少しでも理解した上で、共にいるんだろう―――?」

―――――ああ、そうだ。
僕は、悪魔の子。忌み嫌われた黒を持つ、呪われた存在。ミツミさんが祓いに来たのは、――――僕。

付きつけられた真実に、目の前が真っ暗になる。幸せに溺れて、忘れていた。

「なあ、リオン」
「はい……」
「もうすぐ俺は成人を迎える。この国の王位は、兄さんに譲られる。そのときお前は、どうするつもりだ……?」
「―――っ」
「あの神子にも近づけない、城にも居座れない、父上のところにも行けない。―――のたれ死ぬことは確定だろう?」

逃げ続けていたけれど、セシル様の成人式とカイル様の王位継承式は目前に迫っている。カレンダーはいつから見なかったか。だけど着々と盛り上がる城の雰囲気と街の活気で、その日はもうすぐ来ると言うことは嫌でもわかってしまっていた。

「リオン」
「…は、い」

ガチャリと鍵がしまる音がした。
おかしいな、僕の部屋の鍵、壊れてたはずなのに……。
どんどん近づいてくるセシル様。ベッドの方まで追い込まれると、やがてドサリと押し倒される。整った顔立ちが目前に迫り、僕の髪を一房手に取った。

「――――悪魔の色、か。よく言ったものだな」
「……え」

なにをされるのか分からない状況で、おびえている僕にぽつりと零すセシル様。何かわからないと聞き返す声も無視して、髪を握る手はやがて指先でさらさらと僕の髪を梳く。
あんなにも忌み嫌っていたのに、どうして……。

「俺には、お前が悪魔にしか見えないよ」

そう笑うと、噛みつくような口づけが降ってきた。
驚いて抵抗する僕の両腕を軽々と片手で束ねると、もう片方の手は僕の後頭部にまわり、くしゃりと髪を乱す。

「ん〜〜〜っ!!」


ようやく唇が離れたとき、僕はぐったりとベッドに荒い息で寝そべっていた。セシル様はそんな僕を後目にはあとため息をつくだけで終わった。目は僕からは一瞬もそらさない。それが僕には恐ろしくて、からだが急激に冷めていくのを感じた。



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