∴ 11

それからミツミさんの部屋で過ごすようになった。
ミツミさんが無理に言って僕を部屋にいるようにした、とハイド様には説明をされていたけれど、ほんとうは違う。僕が一人でいれなくなってしまったから。
やさしさに一度触れてしまうと、それがないと寂しくて仕方なくなってしまう。自分の部屋でこっそり泣いていたのを、次の日ミツミさんにばれてしまった。
ごめんなさい、と謝る僕にミツミさんは責めることもなくふわりと笑った。

「俺が傍にいるよ」

やさしさはあたたかい。



ミツミさんと名前を呼ぶことによって、周りがざわついたのを感じた。そこで、忘れていたことを自覚した。ミツミさんは神子さま、僕はみんなに嫌われている悪魔の子。―――周りがざわつくのは当たり前だ……。
気づいたらいたたまれなくなって、今までは笑顔でお話をしていたのに、どんどん顔が引きつっていくのが分かった。
食堂でご飯を食べるのも、みんなと同じご飯を食べるのも、ふつうに感じてしまっていた。

「リオ、またなんか変なこと考えてんだろ」
「えっ」
「顔。眉間にしわ寄ってる。リオはすーぐそうやってぐるぐるいらねえこと考えるからなあ」

俺みたいに楽観的に行けよ。知らない世界にきたっつーのに、まったくそうは思わねえ振る舞いだろ?
自慢するにはあまり誇れないことを、きっぱりと言い切るミツミさんに、思わず笑ってしまう。

「はいっ」
「よかったよかった」

よしよし、と頭を撫でられる。その行為を見ていた周りの人たちがざわついた。
―――悪魔の色に触れた…!
―――ミツミ様、なんと命知らずな……。
やっぱりそう言われると傷つくけれど、ミツミさんが大丈夫とそれでも撫でてくれたから、僕も笑い返すことができた。

―――大丈夫。僕には、ミツミさんがいるから。
いつか帰ってしまうとしても。




もう、11月の後半になった。
ミツミさんの帰る方法はまだわかっていない。僕も前ほど積極的に調べようとは思わなくなってしまった。そんな僕の考えを見透かすように、やさしく笑ってくれるから、僕はもう何も言えなくなってしまった。

「ミツミさん?」
「今日ちょっと王様に呼ばれてんの」
「えっ!ハイド様にですか!?」
「そー。だからリオは俺の部屋で待ってて」

くしゃくしゃと髪の毛をかき乱される。すぐ帰ってくるわーと僕を部屋に残すと、出て行ってしまった。
とりあえず僕はミツミさんのお世話係なのだし、部屋の掃除でもしておこうかな、と迷惑にならない程度でやろうと、廊下に出て掃除道具部屋に向かう。
僕の部屋の隣にあるから、ついでに僕の部屋の掃除でもしようかなと思いながら、ほうきとちりとりなどの掃除セットを持って部屋を覗き込む。
最近はミツミさんの部屋で寝泊まりをしているから、自分の部屋に戻るのは久しぶりだ。

「あれ、意外と綺麗だあ」

夏の終わりから秋の間ずっといたから、2月ほどいなかったのにもかからわず部屋は綺麗なままだ。僕の部屋は階段下だからほこりもたまりやすくて、そういう面でも状態としては一番下なのに。


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