∴ 08

結局帰る方法は分からなかった。どの書物にも、曖昧にしか伝わっていないことが分かった。
図書館から出てとぼとぼと二人で廊下を歩く。使用人さんたちも怪訝な顔で僕たちを見るけれど、ミツミさまがいるから静かに通り過ぎるだけだった。

仕方ねーよ!と気丈に振る舞うミツミさまとは正反対に、どーんと俯いている僕。不安なのはミツミさまの方なのに、どうして僕は落ち込んでいるんだ、と後で反省した。

ミツミさまを、はやく安心させたい。
きっとこうやって明るく振る舞っているけれど、内心は不安で仕方ないと思う。僕なら不安で隠れて泣いている。…泣いてる?
ミツミさまが泣いていたらどうしよう。

「ミツミさまっ、寂しくないですか…?」
「えー?リオがいるから寂しくないよ」

そう言って笑うミツミさま。だけどもし、これが作られた笑顔だったらどうしよう。僕もつらくても笑うことがあるから…だから…。
そう思うと、すべてが偽りのように思えてきた。

「ミツミさまっあの、僕、なんでもします!だから泣かないでくださいっ!」
「…えー?ちょっとリオ、なに勘違いしてるのかわからんけど、俺泣いてないよ??」
「そんなこと言って…!」
「いやいや…」

強がらないでください!と僕も言い募ろうとしたけど、本当に訳の分からないという顔をしているミツミさまと目があって。
……また、空回りをしてしまった。

どうしたの、と優しく問いかけてくれるミツミさまに、僕が思ったことをすべて話す。恥ずかしさもあってたどたどしく説明をしていたら、ミツミさまの部屋の前までそれはかかってしまった。ここでさようならを言おうとしたら、その前にミツミさまに優しく口をおおわれる。

「ふ、?」
「うーん、じゃあお願いしようかな」

にこりと笑いかけられて、張り切る僕。

「ふ、ふぁいっ!」
「じゃあ、添い寝してよ」
「……?」

なんでもすると言ったのは僕だけど、そんなことを言われるとは思わなかった。僕の予想だと、きれいなお花を摘んで来たり、素敵な本を読んだり、お茶を入れたり、そういう種類のものだと思っていたけど。

「そ、添い寝、ですか…?」
「うん。俺、こんな広い部屋、実家にもなかったから、戸惑っちゃってさ」

ミツミさまは神子さまなのだから、豪華な部屋が与えられているのは当然だ。もてなしが足りない位か、とハイド様が心配していた。だけどこの様子だと、むしろ多かったみたいだ。

「そ、そうなのですか?」
「うん。だからベッドも広いし、寂しいんだよね」

ほら見て、とドアを開けてもらい覗き込むと、バーンと一番最初に目に入るのは大きなベッドだった。天蓋付きのこれまた豪華なベッドだ。室内はハイド様とクレア様の部屋と同じくらい広い。

「でも、僕は使用人ですし…自分の部屋があるので…!」
「リーオ」
「え、え、」

優しい笑顔で見つめられたら、なにも言葉が出なくなってしまった。
じゃあパジャマをとってきます、と慌てて言うと、ミツミさまはちょっと前かがみになりながら「わかった」とおっしゃってくれた。


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