∴ 07

「肉もつかねーしなー」
「ひえっ」
「ははは、かわいー声」

最近ミツミさまは、カイル様みたいに体を触ってくることが多くなった。カイル様と違って、痛いことはしないけど、それでも最近はきわどいところにも触れてくるようになったから、ちょっと恥ずかしい…。

「リオ、今身長いくつ?」
「え、ひゃ、156pです」
「小学生かっ!…俺が今178pだから、22p差か……」

基本的にこの国は身長が大きい人が多い。女の人でさえも、僕みたいに小さい人はなかなかいない。昔からご飯をあまり食べていなかったせいか、成長が遅いみたい。

「まあリオがその顔で180とかあったらキモイけど」
「ふえ?」
「なーんも」

そう言って話を終わらせると、目の前にある太い本をぺらぺらとめくり始めた。読む、というよりはただ目を通しているだけのようだけど。
僕も横目でそれを確認してから、一番近い距離にあった本に手を伸ばす。



――千年に一度、二色の髪を持つ選ばれし人間が、遠い世界からやってくる。その人は、この国での災厄を祓い幸せに導く、神子である。

開いてすぐに、お目当ての文章は見つかった。
……二色…?それってやっぱり、魔法の液体の効果が切れたときに現れる、黒色のことだ!

「やっぱりミツミさまが選ばれし人間なんですよ!」
「おー興奮してるなあリオ」
「えっ、あ、えっと…っ」
「はははっ!」

よかった、二色という前提があるから、黒色が現れても不気味がられることはない。僕とは違って、ミツミさまはふつうに生活できる。

「でもミツミさまは、ニホンに帰りたいんですよね…?」
「そーだね。おれはこっちの人間じゃないしね」
「…そうです、か」

しゅんとしてしまう。帰るところがある人に、帰らないでなんて言えない。だけどミツミさまがいなくなったら、僕はきっとうまく生きていけない。
冬になったらカイル様が王位を継承して、ハイド様とクレア様は遠くに行ってしまう。セシル様は当分お城からいなくならないだろうし。
そうしたら、味方もいない孤独な日々が続いてしまう。

「リーオ」
「…ミツミさま」
「大丈夫、俺がなんとかするから」

きらきら光る金色が近づいたと思うと、首筋に鈍い痛みが広がる。

「ミ、ツミさま…?」
「おまじないー」

何が起きたのかと聞こうと思うけど、にこり、と笑われると、何も言えない。
セシル様にもカイル様にも感じなかった、甘いしびれが体中を駆け巡った。


「さあて、調べもの続けよっか、リオ」
「は、はい…」


頬が熱くて、仕方なかった。

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