∴ 06

それからミツミさまは、「異世界からやってきた神子さま」として国中に讃えられた。
異世界人が訪れるとき、国の繁栄が約束される。古くから神話や言い伝えなどを信じている国だから、ミツミさまが来た時から毎日がお祭り騒ぎだ。ハイド様もクレア様も、自分たちの代でそんな人が来たから、とてもとても喜んでいる。

人々に散々話しかけられもみくちゃにされたミツミさまは、げっそりとした様子で僕のもとにやってくる。
あれからハイド様とクレア様が直々にミツミさまに挨拶に来られた。そのときたまたま一緒にいた僕を見てお二人は驚かれていた。慌てて離れようとしたけどミツミさまが僕に傍にいるようにおっしゃられて、そのままいることにした。居心地が悪くてずっと俯いていたけれど。
その様子を見て、お二人は僕をミツミさまの世話係に任命したのだ。びっくりして断ろうとしたけれど、ミツミさまがどうしてもと泣きそうな顔で言い募るから、僕も了承するしかなかった。そのあととびきり素敵な笑顔を向けられた時、騙されるってこういうことだ、と変に納得してしまった。

「なーリオ。俺の髪色、永遠に金色じゃねえんだけど…」
「え?魔法の液体なのにですか?」
「あー…魔法は魔法でも期限付きなんだよ。時間がたてば元の色が出てくる。だから黒が浮き彫りになるよー」

だめだ。黒髪はこの国では忌み嫌われている。ミツミさまが僕みたいな目にあったら、大変!

カイル様とセシル様は、ミツミさまを気に入ったのか、異世界についての話を聞こうと頻繁に話しかけている。だけどミツミさまはそれをやんわりと断って僕のもとに来るから、お二人からますます嫌われたに違いない。今だって僕の手をとって歩くミツミさまには見せれないような顔で、僕をにらんでいる。



とりあえずどんな言い伝えがあるのかを調べることにした。
僕一人じゃ立ち入りが出来ない図書館も、ミツミさまと一緒にいれば自由に行くことができた。それにちょっとさみしい思いはしたけれど、見渡す限り本が並んである図書館に、そんな気持ちは吹っ飛んだ。

「うわああ……!いっぱい本があります……!」
「うげえー俺本とか大っ嫌いなんだけど……」

そう言って本当にげっそりしながら椅子に座るミツミさまに苦笑しながら、僕は言い伝えについて書いてある本を探す。
たくさん種類がありすぎてどれかわからなかったから、一応全部持っていこうとすると、前が見えなくなってしまう。でもゆっくりゆっくり歩けば大丈夫、と足を踏み出したら、横からひょいと本の山が取られて視界が開いた。

「リオはほんとちっちゃいなあ。昔は飯いっぱい食えなかったかもしれないけど、今はいっぱい食べてるだろ?成長しろよー」
「うう…」

3歳しか変わらないのに僕が見上げて背伸びまでしなきゃいけないほどおっきいミツミさまは、軽々と本を持っていくとすたすたと歩いて行ってしまった。残された2冊の本を持って、僕も小走りで後を追いかける。

最悪だった食事も、ミツミさまと一緒に過ごしているおかげで僕にはお腹いっぱいなくらいの量を貰えた。ミツミさまが直接頼んでくれたらしく、食事係の人が顔をしかめながら断れるわけないだろうと、ぞんざいにだけれど僕の分もきちんと用意してくれた。それに頭を下げてよたよたと持っていくと、ミツミさまが本当に嬉しそうに笑うから、僕も嬉しくなった。

「おいしーか、リオ」
「はいっ!」
「そーかそーか」

よしよし、と頭を撫でてくれる。ミツミさまに頭を撫でられると、嬉しくなってしまう。

「いっぱい食べろよー」

ミツミさまはもひもひと本当においしそうにたくさんのご飯を食べる。そんな様子を見て、僕も嬉しくなってにこにこしながら自分の分を食べ始めた。


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