∴ 05 「そ、れは…見た目通り、です…」 「え?見た目?」 そういえば納得してくれると思ったのに、ミツミさまはますます分からないとばかりに眉をひそめる。 「なんも変なとこねえぞ?耳もとんがってねえししっぽも…」 「ふわあっ!」 カイル様にしか触られたことがないおしりを触られて、驚いて変な声が出てしまう。 すまん、と慌てて両手が離されると、真っ赤になったミツミさまがいた。 お互い真っ赤になって俯いていると、それで、と先に立ち直ったミツミさまが先を促した。 「え、えと、この国では黒が不吉の色とされてるんです…。ふつうは、ピンクや緑や青といった色が普通なのに…。白に近い色は天使の色、黒に近いのは悪魔の色と言われてて…特に金色や銀色などは王族にしか現れないんです」 「あー…だから俺が来たときなんかわいわい言われたのか…」 「だからミツミさまが近寄ると、け、けがれちゃう……」 ハイド様やクレア様と仲良くするたびに周りの人たちに何回も言われてきた言葉。それを言われるたびに胸が苦しくなったけど、本当のことだと自嘲する。 「は?なにそれ。そんなこと言われてんの、リオ」 「でも、仕方ないんです。黒色だし…」 「ばっっっかだなあリオは!」 「……え?」 ちょっと怒ったように、ミツミさまが僕に近づく。何か変なことを言ってしまったのだろうか…おろおろしていると、ぱちんとおでこに衝撃が走る。 「俺の国では、逆に黒じゃない方がめずらしいっつーの!ピンクとか青とかまじ漫画の世界だっつーの!」 「え……?」 「しかもお前、むちゃくちゃ綺麗な黒色じゃねえか。なんつーの、こういう色……あーそうだ、濡烏っつーんだよ」 「ヌレガラス?」 きょとんと僕が繰り返すと、呪われると言って誰も触れてくれなかった髪の毛を、さらりさらりと指を通して梳いてくれる。それをしながらミツミさまは言葉を続ける。 「うん。水に濡れた烏の羽根みたいに黒が濃くてなめらかで。光の加減で…緑とか青とか、紫色にも見えたりする……おお、すげえキューティクル」 さらさらと音を立てて流れていく。肩まで伸びた髪の毛に、頭のてっぺんからゆっくりゆっくり指が通って行く。 「俺も黒だし、一緒だよ」 「―――えっ!?で、でも、ミツミさまは綺麗な金色で……」 「あーそりゃ染めてるし。ていうか綺麗とかうれしー、俺自分で染めたんだー」 にししと笑いながらミツミさまは綺麗な金色に触れる。 「染める…?」 「あーそっか、ここにはないんか…。……うーんと、なんだろ、髪の色を自由に変えることができる、魔法の液体、みたいな」 「す、すごい…っ!」 「俺も黒から金にしたのも、それのおかげ。だから俺も、元はリオとお揃いの黒色」 にこり、とウインクをしてそう茶目っ気たっぷりに言うミツミさま。 「まあ俺は地毛でもリオみたいに綺麗な黒髪じゃなかったけどねー」 「えっ」 「ん?なに?」 「き、きれい、って……」 今まで一度も言われたことのない言葉に、戸惑いながら繰り返すと。 とびきり優しい笑顔で、僕の頭をやさしくなでながらミツミさまは言った。 「リオの黒髪は、ほんとうにほんとうに綺麗だよ」 ―――僕はほんとうに久しぶりに、誰かの前で涙を零した。 |