∴ 03

この城には、味方は3人しかいない。
一人は僕に文字などを教えてくれた、王様の付き人のジアスさん。
もう二人は、なんとこの国の王様のハイド様と、その妃のクレア様。
僕を孤児院から拾ってくれて、ここまで育ててくれた。
苛められている僕を心配してくれる、心優しい人たち。クレア様も最初は僕のことを嫌っていたけれど、いつしか仲良くなった。

「リオン、大丈夫か?」
「はい、平気です」
「そう…?」
「心配しないでください、クレア様」

僕が使用人に苛められているという事実に気づいたとき、ハイド様は烈火のごとく怒った。大きく危害を負わせた人はやめさせたりもした。そのせいもあって、使用人たちから苛められることはなくなったけれど、今度はカイル様とセシル様に目を付けられるようになった。
ハイド様はそれにも怒ってくれたけれど、どこ吹く風というように僕を見つけては意地悪をするのをやめない。それを見て使用人たちもまた、苛めを再開した。それが4年前の話。

それに、みんなから嫌われている僕が一国の王と妃に構われているせいで、さらに居づらくなってしまったことは、あの優しい二人には内緒だ。昔はどこでも構ってきた二人だったけど、近頃は周りの目を気にして人目があるところでは構うことをやめてくれた。僕の秘密は、早々にばれてしまったみたいだ。その代り何時に部屋に来てね、というクレア様からの言づけをジアスさんから貰って、見つからないようにこっそり行くことはあったけれど。



カイル様は今年で22歳、セシル様は20歳。セシル様が成人を迎えるそのとき、ハイド様は王位をカイル様に譲るらしい。
城を離れて、クレア様と二人で静かに暮らすらしい。城に一人置いていく僕を心配して、着いてくるかとクレア様がおっしゃってくれたけれど、そこまでお世話になるわけにはいかない。丁重に断った。
なら、とハイド様は僕に多額の融資をし、一人でも過ごせるようにしようともおっしゃってくれたけれど、それこそ遠慮した。

セシル様は今年の冬、20歳の誕生日を迎える。
そのとき僕は、どうしようか。


今日も城の掃除に勤しんでいると、ばたばたと階下が慌ただしくなった。
使用人たちも自分の仕事をほっぽり出して広間の方へと走って行ってしまう。
なんだろうと思いつつも、僕は特に興味を持つこともなく掃除を続けた。





「神子さま!神子さまだ!!!」
「うるさいなあっ!だからおれはあんたらが言う神子でも救世主でもなんでもないんだって…!つか何回も聞いてるだろ、ここはどこだって!!」

掃除がようやく終わり食堂に向かうと、たくさんの人が一人の人を取り囲んでいた。僕もそうっと近づくと、金色の髪の毛をしたかっこいい男の人がいた。

「ていうかなんだここっ緑の髪の毛とか青とか変な色ばっかしやがって!アメリカかここは!?」

ぎゃあぎゃあと大きな声で喚く声は、このお城ではあまり聞かない。
街の子供たちのような人、なのに身長も高くて男の人と言う感じなので、なんだかとてもアンバランスだ。
ぼーっとその人を見ていると、人の間からばっちし目が合った。
すると

「なんだっ!!黒もいるじゃねえか!!」
「――っ!?」

僕を見つけると、ぱあとあからさまに顔を瞬かせ、長い足を動かして寄ってくる。

「お前日本人!?」
「え、えっ?」
「神子さまっ、そのものは悪魔の子です、近寄ってはいけませぬ!」

いきなし僕をぎゅうううと抱きしめるその人に、身長差と体格差がありすぎるせいで抵抗がまったくできない。周りの人がそうやって止めるのも聞かず、なあなあと質問を繰り返す。僕は酸欠でそのまま気絶してしまった。

―――おいっ!?おいっ!?
―――神子さま、そのものは放っておいて、こちらに…
―――うるせえ!おい、医者はいねえのか!?おい、おいっ……

遠くで、さっきの人が叫んでいる声が聞こえた。


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