∴ 02

それから倍の時間をかけて自分の仕事を終わらせた僕は、ふらふらになってお昼を貰うために食堂に向かう。
他の人よりもぞんざいに扱われた食事を持って、こっそりといつもの場所で食べようと向かう。
食堂で一度食べていた時、セシル様に見つかって思い切りスープをかけられたことがあったから、それからはこっそりと食べるようにした。

最近見つけたお気に入りの場所、薔薇園の目の前でご飯を食べよう。
肌寒くなった今日は、人はいないだろうし。それに奥地だから普段からめったに人は来ない。
足取りは軽い。今は城の人はご飯の時間だから誰もいない。静かな廊下に、カショカショと食器がすれる音がする。最初から冷めた料理だったから、これ以上冷たくなることもない。
お気に入りの場所について、食事を始める。
もぐもぐとよく噛んで飲み込む。夜はご飯がもらえることが少ないから、今のうちに溜め込んでおかなきゃ。

「ちょっと寒いなぁ」

夏が終わる。
今度ここに来るときは、少しあったかい恰好をして行こう。
お母様が小さいころ編んでくれた白いセーターは、今じゃもう小さいけれど、抱きしめるだけで胸がぽかぽかするから。

「…かあさま」

会いたいなあ。
今の生活はもちろんつらいけど、ハイド様やそのお妃様クレア様、側近のジアスさんが優しくしてくれるから、まだ大丈夫。だけどカイル様やセシル様、お城の人たちが厳しいから。いつも泣きたくなるのを堪えるのも疲れてしまう。



「―――うるせえなあ、マザコン」



ふいに降ってきた声と影に驚いて上を見る。
綺麗に光でキラキラと光る、銀髪の持ち主。―――カイル様だ。


「ゴミみてえな飯食ってんじゃねえよ」
「あっ…」

半分以上残っていたプレートを蹴飛ばされる。
ガシャアアンと音がしたけど、今度は誰も寄ってこない。当たり前だ、秘密の場所なんだから。
カイル様は、セシル様と違って陰で僕を苛める。集団で苛めることもない代わりに、セシル様よりも陰湿だった。

「髪色は忌み嫌われていた黒だっていうのに、肌は不気味なほど白いな――――」

ぞくり、と背筋が泡立つ。
熱に浮かされたような瞳で、カイル様が僕を見るときは、危険だ。
慌てて離れようとしたけれど、それよりも強い力でひっぱられ、思い切り首筋に噛みつかれる。

「いた、っ―――!」

ぐりぐりと歯を立てられて、髪の毛を引っ張られる。
ぶち、と数本抜けていく音がした。

「や、やめてくださ…っ」

冗談抜きで怖くて痛い。涙ながらに訴えたら、思い切り背中を押されて前に転んだ。

「…悪魔め―――」

そう言い捨てると、去り際にもう一度僕を蹴ってからいなくなった。
ばくばくと心臓がうるさい。セシル様とはまた違って、本格的に痛みを与えて危害を加えるカイル様。

「っえぐ、ひくっ」

食事が終了する時間まで、僕はそのまま泣き続けた。



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