∴ 01

黒髪黒目は、悪魔のしるし。

「いやだ、目が合っちゃったわ…」
「気持ち悪い…」

こそこそと、聞こえるように言われる陰口にももう慣れた。
僕は一人お城の廊下を掃除しながらため息をつく。生まれて14年経った今も、現状は変わらない。

金や緑、赤など綺麗な色が普通のこの国で、黒は特殊だった。
僕のお母様はピンク色の髪の、きれいな人だった。お父様は見たことがないから知らない。
黒に近いと悪魔。白に近いと天使さま。
そう古くから言い伝えられているこの国じゃ、僕は忌み嫌われて当然だった。
特に王家はみんな白に近い色。この国の王様のハイド様は綺麗な金髪。第一王子のカイル様は銀髪、第二王子のセシル様は白っぽい青。みなさまが正統な血を引く証だ。
メイドの中にもこげ茶はいるけれど、僕みたいに真っ黒な人はいない。おまけに目も真っ黒なんだから、最悪だ。

「……はあ」

ため息を吐きながら今度は掃き掃除をしていると、ビシャッと水がこぼれる音がした。
こういう嫌がらせも初めてじゃないから、心を無にして振り返る。最初の方はつらくてつらくて泣いていたけど、慣れって怖い。
やっぱり、セシル様がにやりと意地悪く笑って立っていた。足元には空になったバケツ。

「邪魔だから蹴っちまった、悪いなあ」
「……いえ、こんなところに置いておく僕が悪いので……」

泣いたりしたらセシル様がまた面白がるだけだ。長年いじめられ続けてそこは熟知しているので淡々と言葉を漏らす。
せっかくきれいにした廊下が濡れていても、もう泣かない。
それに面白くがないと舌打ちをすると、バケツを思い切り僕めがけて蹴り上げた。

ガッシャアアアン!!

大きな音がする。びびりな僕はもう涙目だ。
その音に何事かとたくさんの人たちが現れるけど、僕が立っているのを見て顔をしかめた。

またお前か。セシル様もこんな奴にちょっかいなんてかけなくていいのに。
ねえセシルさまあ、はやくお部屋行きましょ?
はやく掃除しろよきたねえ。

口ぐちにそういうと、また興味もないとばかりに散っていく人々。
誰もいなくなったところで、また僕はこらえきれずに泣き出した。




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