∴ Say,YES.(逃げられない親衛隊長)

季節外れの転校生がやってきた。
それから学園内は荒れに荒れ、親衛隊も過剰な行動をするようになった。
僕が統制しているはずの会長親衛隊はその筆頭。
僕は命令していないのに、いざとなったらトップを差し出す親衛隊員たちの醜さに、忌々しいと舌打ちをした。

「お前が、−−−に?」

興味のないものは一切感心を持てない。
多分今言ったのは誰かの名前だろうけど、興味ないからそれはただ音として耳を通って行った。

「違いますぅ、勝手に下のものたちがぁ…っ」
「気持ち悪い声出さないでくださいっ!」

大の親衛隊嫌いで有名な副会長がそう顔をゆがめる。
仕方ないだろ、ここでは僕はこういうキャラで通ってるんだから。
だけどそれも今日で最後。
一応否定はしておいたけど、僕に処分が下るのは明らか。
停学にしても退学にしてもどっちでもいい。
僕がここの学園を去ることは、転校生が来る前から決まっていたから。

名門と言われた男子校に両親は入れることに必死だった。
僕の意思とは反対に。
男同士で起こった興味のない出来事、退屈な毎日。僕は飽き飽きしていた。
大体僕はこんな学園に通えるような家じゃないってこと、両親たちは十分に理解していたはずなのに。
この学園では顔と家柄が重要だ。顔はいいにしても、家柄では最低ランクの僕は、いつも誰かに襲われそうになっていた。そんな危険に毎日侵されるなんて冗談じゃない。僕は自分の身を守るために、入りたくもない親衛隊に入った。
だいたい中学はふつうに公立に通っていたのに、今更高校はここだとか、無理に決まってるだろう。

涙ながらにそう両親に訴えれば、二人も目を覚めたみたいで。
ネームバリューなんかよりも、息子の意思が大切だって、公立高校に編入手続をしてくれた。
そこには僕の親友だった子も通っているらしい。

それが決まったのが、転校生が来るちょうど1週間前。
区切りがいいように2学期まではこっちの学園に通うことになっていたから、3か月の辛抱だった。
例え親衛隊だからって生徒会の奴らに暴行を加えられたって、周りから蔑みの目を見られたって、僕には帰る場所がある。

(あと少し、せいぜい勝手にやっててくださーい)

親衛隊の制裁も特に停めることもなく、ただ周りが勝手に崩壊していくのを高見の見物をしていた。



会長が冷たい目で僕を見下ろす。
退学でも停学でも、お好きなようにしてください。
大笑いしたい気分だったけど、一応怯えているようには見せなければいけない。

「……お前は、」
「な、なんですかぁ…っ?」

そんな僕を見つめながら、無表情に言葉を続けた。

「いくら俺が殴っても、お前を孤立させても、まったく俺にすがろうとはしなかった。それが俺は腹立たしくて―――」
「……かいちょ、?」

いつもと違う会長の様子に、周りも不審に思い声をかける。
僕の知っている会長は、俺様で、下半身が緩くて、僕をないがしろにして―――。

「どうしてそうなんだ、お前はいつも。そう思っていたけれど、ようやく分かった」
「−−−え…?」
「お前には、帰る場所があるからいけないんだ。お前が逃げる場所をなくせば、お前は俺の元にいるんだろう?」


その瞳に映るのは、まさしく狂気。
恐ろしくなって、僕は思い切り会長を突き飛ばしその場から逃げた。



僕がここにいつまでも馴染めなかった理由。
それは、あの人の僕を見つめる視線が、すべてが、僕を捕えて離さないからだ――――。



その晩、融資をするかわりに僕を会長のもとへ渡せという話が来たと、両親が震える声で伝えてきた。


「――――っくそ……っ!」


断れば一家が露頭に迷うことになる。
僕の返事は、分かりきったことだった。



おわり


かわいそうな親衛隊長。。。
逃げようとする受けと逃がさない攻めの関係がたまらないという話。

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