∴ 02

わけもわからないままホテルに連れ込まれる。

「えっえっまって!?」

ベッドに押し倒されて服を脱がされ―――ってちょっとまってよ!!
おれは男に抱かれる気なんかないんだから!!

「黙って抱かれろ。10万ほしいんだろ?」
「ほおお…!?!?いや、おれ、おれほんとは20万ほしいんでっっ」
「んな金くらいいくらでもやる」
「まじですかっ!?じゃなくてちがくて、ほんとにお金持ってるんですか?」

そうだ。
この人、口だけかもしれないし!!

「ほら」
「きゃーっっ!!!」

ごそごそと取り出したサイフは、分厚くて札束がいっぱい入ってた。
なにをやったらこんなに稼げるんだ。こんなの、絶対まともな仕事してる人じゃない。
抱かれるなんて冗談じゃない!

「あ、あのっ」
「なんだ?」
「おれ、しゃ、シャワーあびたいです…っ!」
「…わかった」

苦肉の策とばかりに言った言葉で止まってくれてよかった。

「じゃあ俺も入る」
「ちっげーよ! じゃなくて、あの、はずいんで一人で入ります…っ」
「…わかった」

思わず全力で突っ込んでしまった。
慌てて訂正したら、笑いながら体が離れた。よかった。

「すぐ出てこい」
「はい…」

とりあえず1時間籠城したら、怒鳴られて半泣きで出た。

「あなたもお風呂入ってください……」
「あ゛?てめえ、こんなに俺を待たせておいて……」
「ひえええすみませんすみません〜〜〜」
「……っち」

思い切り舌打ちしながらもバスルームに向かっていったその人が見えなくなると、ほっと一息つく。
もうお金だけとって逃げてしまおうか……。
ちらりと投げ捨てられたサイフに目線を映す。
おれは名前も名乗ってないし、個人が特定できるものも持ってないし、でも……。
でもこの人、多分むちゃくちゃ偉い人だ。
たとえばやくざとか、社長さんとか、そんな感じ。
20万とか盗んだら大金だし、下手すりゃばれて殺される。

でも、でも…。

「うう………」

そろりと手を伸ばす。
だけど、やっぱり、ちきった。

「あああ無理だあああ……」

小声で叫びながらベッドにうずもれる。
こうなれば、お金なんかいらないから、はやく逃げよう。

「次の人を探そう……」

この人みたいに、怖い人じゃなかったらいいや。
そう思って、そろりそろりとドアから出ようと向かう。
シャワーの音は響いてたから大丈夫。
カモフラージュにテレビをつけておいた。ふかふかのじゅうたんだから足音が響くこともない。

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