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そして迎えた今日。茅は舞台袖で理事長の用意した馬鹿にでかい花束に埋もれるように自分の出番をただ静かに待っていた。全校集会なので、いつもは広い講堂も人であふれている。後ろの方にいる生徒には壇上の様子がわからないということで、左右には大きなスクリーンが立てかけてあり、どこからでも表情が丸見えである。現在は会長が壇上で挨拶している様子がスクリーンに映し出されている。親衛隊と呼ばれる女子のような男子たちが美麗な顔を見て悲鳴を上げていた。その会長が締めの言葉を言い、そして長老を呼ぶと、場はたちまち静かになった。

いつも通り、普段着で長老は、ゆっくりとマイクに向かって歩いていく。最後だからと着飾らないのがなんとなく長老らしい、と生徒たちは思った。茅はその様子を瞬きもせずずっと見続けていた。
会長が長老と入れ替わる形で茅のいる舞台袖に戻ってくると、ぽん、と茅の頭に掌をのせ、何も言うことなく奥に去って行った。


壇上では長老の話しが始まっていた。
昔を懐古するように目を細めながら、長老の就任当時の様子などを面白おかしく話している。しんみりしていた空気もなごみ、あちこちから笑い声が漏れている。
理事長がその様子を見ながら、「僕の話しもこうやって聞いて欲しいよ」と零していたと教師陣はのちに生徒たちに暴露した。


「――走馬灯のように駆け巡った42年間だったけど、この学校に赴任して、君たちに出会えて本当によかったと、今は心から思っているよ」

その言葉で、一瞬で静まる講堂内。

「こんなおいぼれに、優しくしてくれて ありがとうね」

にこり、と優しげな顔で、しわくちゃになりながらそう笑った。段々と漏れる泣き声。茅はぎゅっと花束を抱える力を強くした。

「では、副会長から長老に、花束贈呈です」
「ここでも長老かい?」

会長が言った一言に笑う長老。それにとてもきれいな笑みを浮かべ

「長老は長老でしょう?」


予めブレザーの襟につけられていたピンマイクのスイッチが入る音がした。

真っすぐ、長老の元へと歩みを進める。

「―――長老、今までありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうね」

どさり、とたくさんの花が色とりどり咲いている大きな花束を渡す。そこで大きな拍手が鳴り響いた。それに茅は笑顔を返さず、言葉を続ける。

「長老とはたった2年間の付き合いでしたが、僕にとっては、本当に大切な時間でした」
「―――………」
「僕が、悩んでる時、長老のいる社会科準備室で一緒にお茶を飲んで、お菓子を食べて、いろいろ話を聞いて下さって、」
「――うん」
「ほんとうに、僕、うれしかったんです。おじいちゃんみたいに、長老のこと思ってて、……っ」

こぼれそうになった涙を隠すように俯く。生徒たちもいつもと違う茅のようすに困惑するようにただ舞台、スクリーンを見つめる。

「―――茅ちゃん」

そんな中優しく呼ばれた自分の名前に、とうとう張りつめていた涙腺が決壊するのがわかった。


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