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「ちょ、長老がっ、笑って、お別れしたいってゆったから…っ、えぐっ、僕、我慢してたのに……っ」
「そうだったのかい」
「そ、そうだよ……っなのに、長老が…っ」

生徒たちは副会長の泣き顔に驚き、そのあとはみな見惚れていた。きらきらと涙が赤く上気した頬に伝う様子はとても美しく、そして、色っぽかった。その顔を見てタチと呼ばれる生徒たちがピンクの妄想に染まっていく。風紀委員長や会長は雄の目をして、茅を見ていた。

「ちょ、長老に会えないの、…っすごく寂しいよ…」
「…うん」
「今度から、社会科準備室に行っても、長老がいないの…っ僕、ほんとに、寂しいよ…っ」

えぐっ、ひっく、茅の泣き声につられるように涙を零す生徒も多数いた。

「茅ちゃん」
「…っなに…っ」
「今までありがとうね。茅ちゃんと一緒に過ごした時間、本当に楽しかったよ」
「〜〜〜ちょうろおぉおっっ」
「わあっ」

耐えきれず茅が長老に抱きつく。その拍子に抱えていた花束が長老の手から落ち、色とりどりの花びらがあたりを舞った。ゴンッ、とピンマイクが床に落ちる音が響いた。

「茅ちゃんはね、みんなに嫌われてるってずっと言っていたでしょう?」
「……ぅんっ」
「それはね、勘違いだよ。――周りを見てみなさい」
「――?」

茅が長老の腕の中からこっそりと目線を動かす。
そこには、茅の方を見て涙を流し感動している人たちや、顔を真っ赤に染めていたり、じっと目をそらすことなく見つめていたりする者がいたが、その眼には茅を嫌悪したり、憎んだりする感情は浮かべていなかった。

「茅ちゃん、今日から一歩踏み出してみなさいね」
「――一歩…?」
「君は周りのことを見てなさすぎる。自分に自信がなさすぎる。――自分をさらけ出しなさい。周りは君のことを最初から受け入れているのだから、今度は君が受け入れる番だよ」
「―――っ、」
「返事は?」
「……は、ぃ」
「うん」

ぽんぽん、と頭を撫でられる。ぎゅ、っと長老の服を握り、ゆっくりと腕の中から離れる。そして涙をぬぐって、深呼吸をし、顔を上げると。


「―――副会長が、笑った………」


とても美しく、微笑んだ。目元があかく、頬には涙が流れた跡がついていたが、それでも誰しもがみとれるほど美しい、茅の本当の笑顔だった。その笑顔を見て長老も微笑む。

――周りの様子には気付かず、茅はマイペースに床に落ちたピンマイクを拾い、再び自分の襟元につけると、壊れてないかを確認し、口を開いた。

「長老、本当に今まで御苦労さまでした。またいつでも遊びに来て下さい」

僕、頑張ってみるね。
茅は長老の言ったように、笑顔で最後締めくくった。


長老がいなくなって1週間。茅は徐々にだが自分をさらけ出すようになった。あの全校集会で見せた笑顔と泣き顔から急激にファンは増え、また茅を狙う輩が急増した。


―――その中には、

「茅ぁ、お前泣き顔まじそそるなー。ほんとは泣き虫なんだって?」
「っえ?」
「長老に聞いた」
(長老!!!)

一癖も二癖もある、肉食獣のように獰猛な、茅の苦手な風紀委員長。

「なあ、泣いてみろよ。おら」
「いたっ」

ビン、と思い切りデコピンをされる。痛みに強くない茅はたちまち涙が浮かぶ。

「やっぱいいなーお前」

その顔を見て満面の笑みを浮かべるドS風紀委員長。涙が伝う頬に触ろうと手を伸ばすが、その手をまた別の手で払いのけられる。ちっ、と風紀委員長が反射的に舌を打つと、びくりと茅が肩を揺らす。

そして、

「てめえ茅泣かせてんじゃねえよ」
「っうぁ!」

横から腰をかすめ取られると、そのまま胸元まで引き寄せられる。

「か、かいちょ…」
「あーあ、泣いちまって」

ぺろり、と会長が目元を舐め上げると、一瞬で茅の顔が真っ赤に染まる。

「あーもう、可愛いなお前はほんと」

距離をもっと詰めようとしてくるセクハラ会長。

「「茅ちゃんを離せー!」」
「…茅、嫌がってる」

それを見て助けにぽかぽかと風紀委員長と会長をそれぞれ殴るというには優しい力でいためつける会計双子。
残された茅をひょい、と抱き上げる書記。

――長老。自分をさらけ出すのはいいけど、

「茅ぁ…」
「茅――」

貞操の危機に見舞われるなら、もうちょっと見送った方がよかったかもしれません。


おわり

泣き虫副会長たぎる!
しかし、どうしてこうなった。

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