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襲ってやろうと思ったけど、史がまるでチワワのように穢れのない瞳で真っ直ぐ俺を見つめてくるから、自分の汚さが浮き彫りになって、そんな気持ちはどっか行った。
史がばふってしてたベッドに二人並んで寝る。
なぜか流れで隣で寝ることになってしまった。グッジョブ流れ!!

目がギンギンに冴えて寝れなかった俺とは対照的に、すうすうと心地よい寝息を立てて寝る史。お休み3秒?という勢いで眠りに落ちていた。
勇気を振り絞ってぎゅっと抱きしめてみると、子供体温というか、ぽかぽかで気持ちよかった。そうしてずっと抱きしめてみると、いつの間にか俺もそのままの体勢で眠っていた。
目が覚めたとき、ぱちぱちと瞬きをしている史と目が合って、瞬時に目が覚めたのはいい思い出。

それから途中まで一緒に帰って、俺は夢見心地のまま家に帰宅した。
小さく振られる手が、めちゃくちゃ可愛かった。

「紀里谷(きりや)、お前昨日結局どーした?」

それから史がさっきまで着ていた俺のバイト用の服を持って、バイト先に向かう。
昼は喫茶店、夜はバーに変わるところで働いている。今日は昼だけだから、喫茶店だ。
更衣室に入ると、バイト仲間でサークルも一緒な、諸星(もろぼし)に一番にそう言われる。俺の中で史との一夜は秘密にしようと思っていたので、

「あー一人でホテルで寝てた」
「お前リッチだなあ」
「まあな」

余計な詮索もされることもなく、この話は終わった。


そうしていつものように働いていると、客で来ていた女子高生が携帯を見てなにやら興奮をしている。

「見てこれー!超萌えるー!」
「?ツイッター?」
「このつぶやき!」

ちょうどその二人が頼んでいた注文の品を持っていく途中だったので、テーブルに向かっていくと。

「ラオス語で、頑張るは『ぱにゃにゃん』って言うんだって!!まじ萌え!!」
「ぱにゃにゃんとか狙いすぎでしょ」
「今度西條くんにやってみれば?」
「絶対嫌だよ」
「ちなみに頑張っては『ぱにゃにゃんだー』らしいよ。今度言わせてみれば?」
「……」
「亜矢子、すごいあくどい顔してたよ今」

邪魔しないように持ってきたものを片隅に置くと、女子高生二人がはっと気づいたように声のトーンを低くする。
……ぱにゃにゃんとか……。狙いすぎてて引くわーと思いつつも、史が言ってる姿を想像して勃ちそうになる俺は、もうほんとに…。
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