∴ 04

オルエさんと過ごす時間が多いせいで、すっかり仲良くなった僕たちは、オルエさんの淹れてくれた紅茶を飲みながら、二人で話していた。
式が始まるまで、あと8日。
たまにイシュさんもひょっこり来たかと思うと、オルエさんの淹れたお茶を飲んで僕と話す。

「帰る方法って分かりませんか?」
「お前は本当にしつこいな…」

呆れたようにないと言うイシュさんに、それでもしつこく募る僕、というのが主な話の内容だけれど。



「いきなり呼び出されて結婚しろとか言われても、僕の世界はここじゃないんです!帰りたいのは当たり前でしょう!?」
「……お前……」

全然話を真剣に聞いてくれないイシュさんにとうとう切れたのは、式まであと5日というときだった。
僕も何もしないでじっとタイムリミットが来るのを待っていたわけじゃない。
宰相さんにも聞いた、図書館の膨大な本も調べた。だけど広すぎて全く見つからない。

「それに結婚しても好き勝手していいと言うなら、僕じゃなくてもほかに適当に相手を見繕ってください…っ!」

そのときはなかなか見つからない焦りと、異世界に来たストレス、そして個人的にイシュさんにむかついていたのが一気に爆発した。今思えば、よく言ったなああんなこと、と我ながら尊敬する。

「トワ様…」
「…っ」

心配そうに僕を見るオルエさんの視線にはっとすると、無愛想に謝罪をし、図書館に向かった。

「……イシュ様、トワ様とのこと、考え直してみた方が……」
「…………」
「も、申し訳ありません、出過ぎたことを…っ」

メイドの中では最高権力とはいえ、所詮はメイドであるオルエが口出しをすることではない。国王に一介のメイドが意見をするなんて、恐れ多いことだと分かっているのに。それでも口に出してそれをとがめてしまったのは、永久を思うがあまりのことだった。
イシュは、そんなオルエをとがめることもなく、ただ永久が消えた方向をじっと見つめていたのだった。


怒りに身を任せて図書館に来たけど、やっぱり何も見つからない…。
イシュさん怒ってるよね。だけどこれを機に、一緒に探してくれればいいな…。それか愛想を尽かしてほっといてほしい…。
はあ、と大きなため息をついて、うろうろと図書館を歩いていると、いつの間にか奥にひっそりとある小さな棚の前に辿り着いていた。
異種間の性交方法や、昔いた国王に対する批評本などが置いてある。ジャンルはばらばらで、特にこれといって興味をそそられるものや役に立ちそうなものはなかった気がする。けど、ふとあるものを見つけて、思わず立ち止まった。

この世界に伝わっている童話だろうか。
小さな女の子が、きらきらとしたお城の中に、ぽつりと立っている表紙だった。
なんとなく、僕と同じ境遇な気がして、手に取ってしまう。
その場でぱらぱらとページをめくると、中身にすぐに引き込まれた。


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