∴ Sleeping Beauty(ヤンデル)

「愛されてるか不安だった」
「お前を壊したくなかったから」



くそくらえだ。そんなもの。



「はやく死ね。それか慰謝料払えクソ野郎」



お前は、本当に相手のことを考えていないよね。
自分がいかに深い傷をつけたのかとか、罪の意識が全くない。
一度裏切られて、そんな簡単に元通りに戻るなんて、無理に決まってるじゃん。
こいつは、本当に本当に馬鹿。


しかも今日浮気してたのは、最近転校してきた奴とか、ほんと両方クソじゃん。
僕とどんだけ付き合ってたと思ってんの。まあ半年だけだけど。
それでもぽっと出の転校生とヤってるとは思わなかった。
ゴムの数とか、雰囲気とかで、今日が初めてじゃないなこれは。

「これは―っ!」
「ごめんっ、おれが――っ」

目の前で喚いてる男二人。
真昼間から裸で文句言うとか、超シュール。

「ビビ―――」
「お前が勝手にその名前で呼ばないでよ」

美鷺美弦(みさぎ・みつる)。美しいが二個名前にあるから、「美美」で「ビビ」。
そんなあだ名、普通は呼ばれたらぶんなぐってやるけど、たった一人だけはそう呼ぶのを許してあげてる。
それでも呼ばれるのを許したのに、7ヶ月かかったんだ。なんで転校して1ヶ月もたたないあんたがそれで呼ぶの。僕の許可もなしに。

「ごめ―――」
「謝って済む問題じゃないでしょ」

土下座する二人の頭を思いっきり踏んづけてやった。
そこまでやったとこで、静止の声がやっとかかる。

「ははっ、ビビそれは間抜けだろ」
「…帷(とばり)」

肩まである黒髪に右手を当てながら、爆笑してこっちに向かってくる。

「うるさいな。帷だって見てたでしょ、こいつらのクズっぷり」
「まークズにそんな揚力使うなよ」
「…正論だね」

はあ。

「もうどうでもいいや、疲れた」

最後に思い切り舌打ちして、頭から足を離す。

「二度と僕の視界に入らないで」

ていうかもうほんと死んじゃえ。
全てがどうでもよくなって、目の前のモノから視線を外す。そうして後ろに立っていた帷の横をすり抜ける。だけど帷は動かない。いつもなら僕が動いたら、何も言わないでもついてくるのに。

「帷?」
「先行ってろー」
「?じゃあ外で待ってる」にこりと笑いかけてくる帷に、思い切り顔をしかめた。




「さーて。うちのビビちゃんをよく傷つけてくれた代償は、当然払ってもらいますよ」
「美弦に謝らせてく―――」
「だめだよ、もう無駄」
「なにが―――!?」

何もわかっていない浮気男に、最終通告。

「ビビがあーいう状態になったら、もう終わり。もーあんたの姿もなんも見えていないよ。どーでもいいってなると、ビビってすぐ記憶から消しちゃうの」
「半年も付き合って――」
「たった半年、でしょ。俺がビビとどんだけ一緒にいるか知ってんの?」

――――あっちが気づいてないだけで、ずーっと見てたんだ。

「それって……」
「あーちょっとしゃべりすぎた?」
「ぐぁっ」

思い切り顔を蹴り飛ばすと、いいとこに入ったのかぶっ飛んでった。
寮部屋って防音なんだよね。だから外のビビには聞こえない。
いつも俺が、別れ話のあとになにをやってるんだとか。


「鈍感すぎてイライラすんなあ…。ビビの体1回抱かせてやったんだから、満足しろよ。それか死ねよ」






「何やってたの」
「なんもー?」

長くかかるだろうと見越していたのか、ビビは帷に一通「食堂にいる」とメールを送り、さっさとドアの前からいなくなっていた。
少し長くかかってしまったと焦っていた帷は、ふうとため息を吐き食堂を目指した。

合流したあと、ふんふんと鼻歌を歌う帷を訝しげに見上げるビビ。


「…帷」
「ん?」
「…なんにも」


シャツに付いた赤い染みは、見ないふり。



おわり


会話文ばっかですみません!
ビビと帷くんは昔から構想してたコです。
でももっとビビは、敬語キャラで泣き顔が美しい子だったのに。どうして女王に?

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