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―――御堂茅(みどう・かや)は、宝仙学園高等部、第72代生徒会副会長という名誉ある役職に就いている。長いまつげに縁取られた大きな茶色の瞳、さらさらと風になびく黒髪、そして透き通る程白い肌。顔のいいものが多い学園の中でもトップクラスに位置する美しい顔を持つ、すれ違うだけで羨望のため息をつかれる。しかしその麗しい表情が変わることはほとんどなく、また口数もあまり多い方ではないため、生徒間の中では「氷の女王」と影で言われていた。

そんな彼は、今、


「…ひくっ、えぐっ…や、だ…っ、寂しいよぉ……っ」


全校生徒の前で、泣いている。



「今週の金曜って全校集会でしたっけ?」
「あー、そうか、今週か………」

かったりい、と呟きながら副会長の御堂茅のつぶやきに返事をこぼした彼は、綺麗に染まった金髪を掻き乱し会長の席に着く。1か月に一度、全校集会という朝礼があるのをすっかり忘れていた。今は2月、卒業シーズンであり、今年度の生徒会メンバーには3年生がいないためそのまま続投されるため引き継ぎなどはないが、それでも卒業式の準備などと忙しい時期だった。他の生徒会メンバーもすっかり忘れていたようで、口ぐちにめんどーなどと言っている。

「確か会長のデスクに明日の進行が書いてある紙があるはずですよ」
「あー?……明日離任式もあるらしーぜ」
「――離任式?」
「ああ、……そうか、長老もう定年退職する歳か…」
「長老!?」
「――っうお、びびった…」

パソコンに文字を打ちながら会長の話を聞いていた茅は、『長老』という言葉に弾かれた様に顔を上げ、ガタンとデスクに手をついて立ち上がる。反動で椅子が倒れた。

「長老が定年退職するんですかっ!?」
「あ、ああ…」

2年間一緒に生徒会にいた会長も見たことがない茅の様子に驚きながら、返事をすると、「ちょっと出てきます…っ!」と誰からの返答も聞くこともなく勝手に生徒会室からバタバタと出て行ってしまった。

「「茅ちゃんなんか変〜」」

会計の双子が言えば、

「……初めて、見た」

茅よりも口数が少ない書記が零す。

「なんだ、あいつ…」

会長は困惑した表情で、茅が消えた扉を見続けていた。




バタバタと茅が廊下を走ると、放課後まばらに居た生徒がぎょっとしたように駆けている茅を二度見する。

「あれ…副会長?」
「……うん、たぶん……」
「―――始めて見た、あんな必死な姿…」

信じられないものでも見たかのように、ぽつんと廊下に残っていた生徒たちは茅が消えていった方をただ眺め口ぐちに言った。


「――――長老!!!!!」

バンッ、と大きな音を響かせ、社会科準備室とプレートがかかった部屋に文字通り駆けこんだ茅は、走ったせいで乱れた息を整えることもなくズカズカと勝手知ったるように中に入る。お目当ての人物を見つけると、キッとにらみながらその人物にとびかかる。『副会長・御堂茅』を好きな人が見れば卒倒しそうな光景だ。


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